「ぶはっ!!」

「……へ?」


 渾身の謝罪に、彼は大いに噴き出す。な、なにごとだ……? 何か、変なことを言ったのだろうか。


「ははっ。あー……ごめんごめん」


 噴き出して笑った彼は、まだ微妙に笑いながらわたしが超えられなかった距離を容易に超え、こちらへと戻ってきてくれる。


「泣かせるつもりはなかったんだけど。……意地悪、しすぎたかな」


 知らぬ間に、どうやら目元に涙を浮かべていたらしい。泣いてない、と言っても「……そっか」って申し訳なさそうに笑ってそっとぬぐわれる。
 さっきまであれだけ不安だったというのに。触れた彼のぬくもりで、それはあっという間に溶けて、消えた。


「……ここじゃ潮風が当たるね。夜遅いけど……もうちょっと歩かない?」


 そっとやさしく絡んでくる指にただただ小さく頷いて、ぬくもりと優しさを感じながら、カランコロンと下駄を鳴らした。


 ――――――…………
 ――――……


「……あ。いい感じにベンチあるじゃん」


 そう言うのは、旅館の側に置いてあるベンチ。そこまで手を引かれ、二人並んでちょこんと座った。


「ごめんね泣かして。 どうして泣いた? オレがつんけんしたから?」


 そっと頬に伸びてくる手に、ビクッと体が震える。


「……怖い?」

「う、ううん。違う……」


 いや、違わないか。


「嫌われるんじゃ、ないかなって……」

「え?」

「お、怒らせちゃった……から」

「……」

「だ、だから……その。嫌われたら……って、怖かった、です」


 嘘のない正直な気持ち。……なのだけれど。なんでかものすごく気恥ずかしくなって、慌てて顔を俯かせる。
 そうしていたら、頭にポンと大きな手。


「嫌うわけないでしょ? オレが、……ちょっといじけてただけ」

「……いじけさせた」

「ちょっとヤキモチ妬いただけだよ」

「ヤキモチ妬かせた……」

「いや、それはしょっちゅうあるし」

「でも……」

「それに責任とか感じないでよ。みんなあんたが好きなんだから、しょうがないって」

「わたしがすきなのはひなたくんだもんっ」


 そう言うと、一瞬言葉に詰まった彼から大きなため息が。


「オレのこと殺す気でしょ」

「え……?! そ、そんなわけな」

「うるさい。今は黙って」


 否定しようと弾かれたように上げた頭は、あっという間に彼に逃げられないように掴まれて。
 噛みつかれるような、深く長いキス。


「別に、今のは真面目に取らなくていいの」


 それだけ言ってまた大きなため息をついた彼は、お疲れなのか。まだ息が整っていないわたしの肩へ、頭を乗せてくる。
 上気した頬に、彼のふわふわの髪が当たってくすぐったい。それに、わざとやっているのか。首元に擦り寄ってくるような可愛い仕草は、わたしの母性本能までもくすぐってくる。
 ……無性にわしゃわしゃしたくなった。けれど、そっと手を動かしたとき、そのまま少しだけ腰を引き寄せられた。