今まであったであろう選択肢を絶たれた。けれど、それでも彼はそれに怯むことなく、違う道へ入っていた。


「でも、本当にそういうものを目指すなら、俺が『道明寺の息子』として堂々と、まわりに認めさせればいいだけなんですけどね」


 でも、それもなんだか面倒くさそうじゃないですかと。もう面倒なのは懲り懲りですよと。
 呆れたような、でも優しい笑顔に、自分もつられて笑ってしまう。


「まあ、カオルはそうするみたいだよ」

「え? そうなの?」

「うん。まあ、日下部はあいつにとってどうでもよさそうだから、さっさと名前変えそうだけどね」

「ははは……」

「あいつは俺と違って、やりたいことがあったからね」

「アイくん」

「別に、卑下してるわけじゃないよ? やっぱり、カオルはすごいな~って思ってただけ」

「……うんっ。そうだね!」


 それには二人で笑いながら頷きながら、さすがに遅くなったからと部屋へと戻ることにした。


「明日はあおいさんの水着楽しみにしてますね!」

「何を楽しみにすることがあろうか。普通の水着だ」

「男にはですねあおいさん。ロマンというものがあってですね」

「そう言われても、じろじろ見てきたらさすがにアイくんでも沖まで投げ飛ばすよ?」

「ははっ。それはそれで楽しそうですけどねー」

(……ポジティブだなあ)


 さすがにここでは迷子にならないから、送らなくてもいいよと言ったのだけれど。


「何があるかわかりませんからね! あ、でも送り狼にはさすがになりませんよ? あとが怖いですから」


 それには大きく同意をし、お言葉に甘えることに――――


「…………」

(――!!!!)

「あおいさん?」


 ロビーを通り過ぎたところで、体がビクゥウーッ!! と震えた。寒気がした。悪寒がした。嫌な予感がした。


「……あ。あいくん。今、何時でしょうか……」

「え? ……3時かな?」

「あの~、1時から、どれくらい経ってますか……ね?」

「え? ……に、二時間?」


 ………………。


「……アイくん。フロントに忘れ物しちゃったんだー……」

「え? そうなんですか? だったら取りに」

「ううん。女の子にはいろいろあるから」

「え。でも、さすがに女性をこんな時間に一人にさせるわけには……」

「いいえ。大丈夫です。一人ではないので」

「え?」

「…………」

「……?」

(――察してえ……!)

「……? 大丈夫、なんですか?」

「イイエ。大丈夫じゃないと思いマス……」

「え。だ、ダメじゃないですか。それなら一緒に行――」

(お願いっ! 察してください! 何も聞かずにいっ……!)

「……あ」