『わたしお昼に海入ったから、もしかしたら先に寝ちゃうかも。そうなったらごめんね?』


 そう言っておいた、一応。今までの人生、寝ずの日とか過ごしてたりもしたけれど、基本早寝早起きがモットーなので。まあ、結局は体に染みついちゃってるんですけどねー。あはは……あは……あ、は……。


 すぴー……。すぴー……。


(先に寝とるやんけ……っ!!)


 一応、ご主人殿またの名を彼氏さんにね? 連絡は入れておきました。


〈今日は女子トークが炸裂するみたい〉
〈徹夜するみたい〉
〈今日はこっちで思い出作ってもいいですか? みたいー〉
〈女の子にもいろいろあるんだよー! みたい~)


 的な内容をね? ご連絡をしましたよー。そしたら優しい優しい彼氏さん。


《“みたい”多い》
《頭大丈夫?》
《“女の子にもいろいろ”とか言ってたら逃げられると思ってるでしょ》
《あっそ。楽しめば》


 こんな感じで来たよ! 優しいね! やさしいやさし……。


(絶対怒ってらっしゃるんですけどっ)


 ふざけすぎました。すみません。調子に乗りました。反省。
 そのあとは、ちゃんと〈ごめんね……〉って送っておきました。……返事はありません。今は、1時半をまわったところです。


(どうしよう。これじゃあわたし、嘘ついてることに……)


 部屋の中で、とっても可愛い顔をして小さな寝息を立てている彼女たちにほっこりするものの……はあ。どうしたものか。
 しかも、ちょっとお腹が痛くなってきたので、二人を起こさないように、そーっと慌てて部屋を出る。


(本格的に痛くなったきた……)


 原因はわかっています。冷たいものの食べ過ぎ。そうに違いない。いや、それしかない。
 しばらくお手洗いに引き籠もり、未だに痛むお腹を、のの字を書くようにして摩りながらフロントの方へ。腹痛薬をもらおう。さすがにちょっと、酷いので。


(……まあ、もしかする可能性も、ないことはないけど……)


 それはないことを祈るしかない。


「夜遅くにごめんなさい。お薬と、万が一のために、あれも戴けますか……?」


 ご丁寧に、巾着袋付きでそれを戴きまして。用を済ませて部屋へと戻ろうとしたら、旅館の玄関へと続く廊下を歩く見知った姿を発見。……こんな夜遅くにどこへ?


「アーイくんっ」

「ひあっ……!? ……あ、あおい。さん……?」


 玄関を出てすぐのところで捕獲。「脅かさないでくださいよ」と、一瞬お化けでも見たような顔をされてしまったが、それは見なかったことにしてあげる。


「こんな夜遅くに一人歩き危ないよ?」


 アイくん強いから、大丈夫だとは思うけど。
 掴んでいた浴衣から手を離し、どうしたの? と首を傾げる。けれど彼は、視線を合わそうとしてくれない。でも、何かはあるのだろう。合いそうで合わないところまで、それは動く。


「……何かあるなら教えて? じゃないと、せっかくの海楽しめなくなっちゃう」

「あおいさん……」


 そっと合った視線は、まだ決めかねているようだった。


「大丈夫。そんなアイくん放っておけないもん。だから、一緒に楽しむために教えて欲しいな?」

「……相変わらず、上手にお話されるんですね」

「えへへ。ありがと」


 そうして一旦閉じた瞳は、ゆっくりと開いた時にはもう、ちゃんと真っ直ぐにわたしを見つめてくれていた。