すべての花へそして君へ②


 予想外の言葉に、驚きを隠せない。


「あ。うーんと。……これは、言わないで欲しいの。誰にも」


 そして語られたのは、彼女のこれからについて。
 確かに彼のことが好きだし、彼とこれからもずっといたい。


「別に、かなくんの家が嫌いとかじゃないよ? 寧ろいい人ばっかりで、極道っぽくないよね、あそこの人たち」


 少しだけ曇る顔の原因はきっと、勘違いをさせられた組の人たちだろう。
 でも、わたしの視線に気が付くと、ふっと彼女はやさしい笑顔になる。それが、無理矢理ではなかったことに、涙が出そうになった。


「あたしね、ちっちゃい子好きだから。保育士さんとか憧れてるの」


 けれど、彼女の瞳には葛藤が見え隠れする。
 彼のことが好き。そうすれば夢はほぼ諦めないといけない。その逆も然り。夢を取れば、きっともう、彼へ想いを伝えることすらしなくなる。……難しいね。恋に柵にさ。


「ズルいって思う? 最低って思う?」


 顔は、葛藤で歪んだ。


「かなくんは好き。ほんとに好き。……でもきっと、ずっとはそうしていられない。今のあたしのしてることは、きっと意味がない」


 もし。カナデくんの気持ちが、ユズちゃんへ傾いたとしても。もうその時には、彼女は決めているのかも知れない。
 だから、ズルいかと。最低だろう? と。……彼女はそう、聞いたんだ。


「意味がないことはないよ? だって、今はカナデくんが好きだからそうしてるんだもん」

「……あおい、ちゃん」

「ユズちゃんは、一生懸命頑張ってるよ。 自分のしてること、そんな風に言っちゃ……寂しいよ」


 飾った言葉など、言いたくなかった。ツバサくんにも言ってきた。してきたことを、意味のないものにするなと。自分が、潰れてしまうぞと。


「……柚子が、したいようにすればいいと思う」

「……。そう、だよね」

「相談しないの? カエデさんにも、お母様にも。……カナデくんにも」

「もうちょっとね? ……もうちょっと、だけ」


 ……想っていたいんだと。
 その言葉は、ブクブクと、お風呂の中に溶かしてた。


「……こうしとけばよかった。ああしとけばよかったって、よく言うよね」

「……あっちゃん?」

「ちょっとのさ、後悔をね、人は引き摺ってしまう生き物なんだ」

「……」


 こんな選択を、したことなどなかったから上手く言葉にはできないけど。


「……素直に、なったらいいと思うよ」


 やらないまま後悔するなら、やってから後悔した方が断然いい。そう思っていても、そうできない人は、この世の中にたくさんいるだろう。
 けれど、そうはなって欲しくなかった。自分の大切な人たちには、何よりも幸せになって欲しいから。


「だからユズちゃん? ちゃんと約束は守るよ。だから、わたしたちが話、聞いてあげられるから。しんどくなったらいつでも言ってね。飛んでいくから」

「あたしも。いつでも行くわ。いつでもおいで柚子」


 ぶくぶくぶく……と。彼女はきっと、感謝の言葉を音にした。
 涙をめいっぱい溜めて。