今度はタオルで容赦なく顔を覆ってくる。けど、口調とは違ってその拭く手はとってもやさしい。
「ぷはっ……! ねえ聞いて聞いてー!」
「はいはいー。首もかなー」
そう言って首元も拭いてくれているけれど、しゃべれるようになったので、にこにこしながら話を続ける。
「あの玉押しがなんと! プシャーッ! って勢いで、わたしのおでこにピタッてくっついたの!! すごいでしょ! 滅多にできない体験だよ!」
「そんな体験しなくていいよー」
「その写真はね? ヒナタくんに頼まれて大仕事を無事に全うしたトーマさんに見せてもらったらいいと思う……って、えっ、ちょちょっ」
話に夢中で、そっちに全然気が付かなかった。
「……っ、どこに手、突っ込もうとしてんのっ?!」
すっかり油断していた。しれっと首元から服の中へ、彼はタオルを突っ込もうとしている。
「え? だって、ここまでラムネ来てるでしょ? どうせ」
「すぐお風呂に入るから大丈夫だってばっ……!」
「でも、気持ち悪いでしょ?」
「大丈夫だからっ。だ、誰かに見られたら……」
「見られたら……どうしよっか?」
「ふえ……?」
今すぐにでも下りてきそうな彼の腕を必死に押さえながら。視線を上げると、生え際に落ちるキス。
「ねえあおい。オレとも滅多にできない、体験してみない?」
そこには、ただただニッコリ笑っているヒナタくん。それは、端から見れば爽やかに笑っているように見えるけど……。
「もしかしたら誰かに見られるかも……っていう体験」
わたしには、舌舐めずりをしながら獲物を待ち構えていた野獣にしか見えなかった。
「……!? やっ。だめだってばっ」
そして彼はあろうことか、プチプチとワンピースのボタンまで外し始める。首元ばかりに気をとられていたら、今度は太ももにまで手を伸ばされて……。容赦のない手に、わたしは必死になってその両方を掴んだ。
「そっか。それは残念」
全然残念そうには見えないんですけどね。あなた、次は一体何を企んでるんですか。ええ?
「キス、していい?」
「えっ。こ、ここで……?」
「うん」
なんだ、うんって。
素直で可愛いけど……でも、やっぱりこんなところでは。
「だめ……?」
ううぅ……。なんだ、この罪悪感は。
そ、そうやって、可愛くしとけばOKもらえると思ってるんでしょ。
「……ちょ、ちょっとだけ、だからね……?」
よくわかってんなあこんちきしょうめっ。
「……じゃあ、あおいが甘くなくなるまで」
そう言って結局は、自分が満足するまでは離さないのだろうけど。結局解放されたのは、わたしが立っていられなくなる直前だった。
「声聞きたいって思ってたけど……必死に我慢してる顔もいいね。ヤバい」
見つかるのだけはなんとしても阻止しなければと思っていたわたしは、それはもう必死に声を抑えましたよ。
まあ、よくよく見たらここ、全然人通りのない場所でしたけどね。さすがですねヒナタくん。用意周到。
取り敢えず、もっと視野を広げようと思います。今日はそれを学びました。



