「カナデくんの将来の夢って何?」


 それから、涼しくて気持ちのいい夜風に吹かれながらふと気になったことをドストレートに聞いてみることにした。


「え? ど、どうしたの、唐突に……」

「お家のことがあるから、どうなのかなって」

「……ああ。そういうことか」


 彼の話によると、まだお父様、紫苑さんとは全然そういう話はしていないとのこと。カナデくん自身、今までお家を出ていたわけだし、今もたまにしか帰ってないからそういう話にもならないんだとか。


「だから取り敢えずは、言われるまでしたいことしようかなーって」

「え? そんな雑でいいの?」

「よくはないだろうね」


 彼はハハッと笑って、続けて「近々進路相談とかしてみるよー」と軽めの返答。結構彼、進路に関して軽いんですけど……大丈夫かな。


「まあ、そんなに真剣に先のことは考えてなかったっていうのが一番近いかなー」

「……そんなんでいいの?」

「だって、まだまだ時間はあるでしょ?」

「高校までの話だよ」

「それも、まだ卒業まで半年以上もある。だ・か・ら。これから考えていけばいいんだよー」


 ニヘラニヘラと笑う彼に、なんだか真剣に悩んでいる自分が至極馬鹿らしくなってしまった。


「ソウダネ。ありがとうカナデくん」

「……全然有り難そうには聞こえないんだけどなー」

「ソンナコトナイナイ」


 実際のところ、時間は無いようでちゃんとあるんだ。だからまだ、焦る必要はどこにもない。


「そうそう。心に余裕を持ってないと、大事なこととか見落としちゃうかもだし~?」

「いいこと言ってるのにだらしなさでパーだね」


 それににこっと笑った彼だったけど、そのあとすぐ、真剣な表情へと変えた。


「気持ちの整理。……つかないままだと、全部中途半端になりそうなんだ」


 ふうと小さく息を吐き出した彼は、満天の星空を仰いだ。


「俺の場合は、後ろにあるものが他の人とは違う。もちろん、アオイちゃんもなんだろうけど」

「……カナデくん」

「だから、覚悟が決まったら、その時は親父に言うよ。多分、向こうから言ってこないのは、俺に時間をくれてるんだと思うし」

「……そっか」


 彼も、いろいろ考えてたんだな。彼はやっぱり、……十分強い。