「おっとー。今のは聞かなかったことにしてくれや」

「え? え……!? ちょっ、ちょっと待って……!?」

「カナデくんが好きなのはわたしだ! そしてユズちゃんは仲の良い友達であるっ! キリッ!」


 キリッて……いやまあ、そうだけどさ。


「それで行こー!」


 ええー……。
 軽くパニックになって頭を抱える俺を、「……無自覚?」と、少し心配そうに彼女が覗き込んでくる。


「い、いや……。別に、今でもユズちゃんは友達だと思ってる。まあそれ以上ではあるけど」

「うむ」

「好意自体は嬉しいよ? 嫌なわけないよ」

「うむうむ」

「実際、今までずっと引っ付かれてたことはあるっちゃあるし、別に嫌じゃなかったし、基本女の子には優しく丁寧がモットーだし……」

「うむむ」


 でも、アオイちゃんがそう見えたってことは……。


「いやいや! 恋愛初心者ですから!! 今までのことは聞き流して」

「でも、好きってわかったでしょう?」

「え……?」


 あまりにも激しく顔の前でブンブン動く手を取って、彼女の否定を強制的に止める。


「アオイちゃんって、よく周りが見えてるし、勘が鋭いでしょ?」

「え?」

「自分のことに関しては結構無頓着だけどね」

「え」


 でも、好きがわからなかったのがわかるようになって。それでもって、今までの予測とかも相まったら。


「アオイちゃん、占い師とかになれそうだね」

「ならないけどね」


 じょ、冗談なのに。真顔で。しかもなんでちょっと怒ってるの。
 ……でもね、アオイちゃん。君と話をして、わかったことがあるよ。


「きっと、素直に受け取らなかった分、自分の中で壁を作ってたんじゃないかなって」


 接着剤はよくわからなかったけど。純度100%とか、もっとわからなかったけど。
 わかったんだ。彼女に、したいと思うことが。


「もっと、ちゃんと見てあげたいって。見たいって、そう思うよ」


 何を苦しんでいたんだろう。俺は、今笑ってくれる、言葉遣いが上手な目の前の彼女が好きだ。ただそれだけ。
 ユズちゃんから向けられる好意は嫌じゃない。とってもとっても、嬉しい。有り難い。こんな自分に、守れなかった自分に、……それを向けてきてくれるんだから。


「ちゃんと、向き合うところからはじめるよ。多分、俺にはそれが必要だから」