すべての花へそして君へ②


 でも、本当に引っ張ってもらわないといけないのは、俺の方だった。
 ヒナくんには敵わないなって、どこかで思ってて。アオイちゃんならヒナくんを選ぶって、どこかで思ってて。諦めちゃった、自分がいて。
 口では『諦めたくない』なんて言っても、心のどこかでそういう気持ちはあった。……アオイちゃんが俺にお礼を言ってくれて、俺のこと振ってくれて。そこからは気持ちだけが先歩き。よくよく見たら足は全然進んでない。
 それで振られた瞬間、また思った。『ああ俺、やっぱりアオイちゃんが好きだ』って。


「だから、ユズちゃんにもそう言った。俺はまだ、アオイちゃんのことが好きなんだって。アオイちゃんに振られた回数くらい、ユズちゃんのこと、俺は振ってるんだよ」


 でも、その時言ったんだ、彼女は。
『ちょっとでも慰めになれたら嬉しい』『申し訳ないって思ってるか』『性格悪いから、この時を待ってた』『付け込んで取り入ろうとする最低女だ』って。
 そう、……言ってたんだ。


「……言ってたんだ。『前に進めるように見ててくれる』って。進ませてくれたから、今度は進ませてあげるよ』って」

「かなでくん……」

「たった数日しか、経ってなかったはずなのに。進めてなかったユズちゃんは、いつの間にか進んで。俺のこと……追い越してたっ」


 悔しい。情けない。そうして俯いた俺なんかの頭を、彼女はそっと撫でてくれる。


「ね? ユズちゃんはきっと、こんな風になって欲しくなんてなかったんだよ」

「……なっちゃった」

「うん。だからわたし、カナデくんが自分で最低って言ったの、否定しなかったでしょう?」

「……酷いね、アオイちゃん」

「ユズちゃんはわたしの大切な数少ない女友達ですので」

「はは。……そうだね」


 あーあ。やっちゃった。……怒られる、かな。


「怒らないよ。ユズちゃんの方が、やっちゃったって思ってるよ」

「え?」

「カナデくんがそんなになっちゃったから」

「……うん。そうだね。困っちゃうなーほんと」


 ほんと、……困るよ。


「……困るの?」

「え?」

「今、困っちゃうなーって」

「……」

「言ったよね?」

「……言ったね」

「何が困るの?」

「な、何がだろう……」

「何が困ってる?」

「……」


 何が、困ってる……? 俺は一体、“何”に困って……。