「だから、そうやって悩むなら、我慢せずに自分の思った通りに行動したらいいのにって言ってるの」
「で、でもそれは……」
「ユズちゃんに悪いんでしょう?」
「……俺が、したくない」
「したくない、か……」
「アオイちゃん?」
ぼそりとそう呟いた彼女は、ほんの一瞬だけ思案顔。そして、次に絡んだ視線は――――。
「さっきも言ったけど、そう言えるのはとってもいいところだ。とっても芯が通ってて素敵だと思う」
「……?」
「彼女がなんて言ったのかは知らないよ? わたしはね」
「……アオイちゃん?」
「けど、彼女はこうに言ってなかった? それでもいいって」
何もかもを見透かしていた。聞き覚えのあるその言葉に、俯きがちだった顔が弾かれたように上がる。
「……ね? 言ってたんじゃない? 思い出して、カナデくん。なんて言ってた? 彼女はなんて言って」
――――君に負担を掛けないようにしてた?
「……な、んで」
「思い出して? 彼女はなんて言って」
……君のこと、進めようとしてくれた……?
「……な、んでっ」
「聞いてはないよ、何にも。ただ彼女を見ていて、わたしが勝手に思っただけ」
どうして彼女は、こんなにも見えてしまうのだろうか。
「それでもいいんだって、言ってたんでしょう? 彼女は本当に前に進んでるよ。君のおかげだ」
「俺、は」
「きっと、いつの間にか追い越されてる。本当に強い女の子だね、ユズちゃん」
「……うん。そこが、いいところ、だよね」
「他にもいいところ、いっぱい知ってるんでしょ?」
「はは。……うん。もちろん。元彼氏さん、ですから」
あの頃を思い出して、なんだか少し複雑な思い。好きだったにもかかわらず、彼女につらい思いをさせた。目の前の彼女が、悪いわけではない。
でもこれは、きっと俺の中で消えることはない。それでも彼女といて、つらい思い出ばかりではなかったんだ。
だって俺は、あの頃確かに――――彼女が好きで好きでたまらなかったんだから。
「ユズちゃんはねー、自分のこと、進めてないって言ってたんだよ」
「え? そうなの?」
「うんそう。だから、前を進んでる俺が、ちょっと戻って手を引っ張ってくれたら嬉しいって。……前にね、そう言ってたんだ」
「……そっか」



