すべての花へそして君へ②


 けど、そんなしんみりとした空気は、あっけらかんとしたわたしの声で、どこかへ吹き飛んでいった。


「まあ、恋愛初心者のペーペーなんで、右から左へ受け流して頂けたらそれでいいんですがね?」

「……?」


 コトリ。シャーベットを置くと、彼がそっと顔を上げる。
 ただ、本当に思ったことなのだ。だから、もしかしたら彼を傷つけてしまうかも知れない。そう思うと、一度開きかけた口がゆっくりと閉まりかける。


「……教えて、くれる?」


 けれど、やさしく笑う彼を見て。悩んでいる彼を見て。何か、自分の言葉が引っ掛かればいいなって。そう思うから。


「わたしには、カナデくんが我慢してるように見える」


 ✿


「……我慢?」

「そう。我慢」

「我慢しなくていいなら、俺今アオイちゃん襲ってるよ」

「襲いたかったら襲ってもいいよ?」

「……しないよ。したくない」

「まあ、してこようものならボッコボコにしてやるけどね」

(目がッ。目が本気なんだよアオイちゃん……)

「でも、したくないんでしょう? だから、それは我慢じゃない」


 彼女の言わんとしていることがわからず、首を傾げた俺にただやさしく、目の前の彼女は微笑んだ。


「カナデくんはわたしのことがまだ好きだから、ユズちゃんの気持ちを素直に受け取れない。それが君の、とってもいいところだ。気持ちがまだフラフラしてるのに、そんなことしたらユズちゃんに悪いと思うんでしょ?」


 ……と。


「元彼女さんっていうのもあるけど、とっくの昔から友達以上には想ってるでしょう?」

「そりゃ……まあ、本気で好きでしたから」

「でも、わたしが好きなんだよね?」

「……うん」


 だから、俺は困っている。この行き場のない気持ちが。寄せられる、ありったけの優しい想いが。俺には少し、……苦しくて。
 それでも彼女は、続けてこんなことまで言うんだ。


「それでいいんじゃないの?」


 ……って。