けど、そんなしんみりとした空気は、あっけらかんとしたわたしの声で、どこかへ吹き飛んでいった。
「まあ、恋愛初心者のペーペーなんで、右から左へ受け流して頂けたらそれでいいんですがね?」
「……?」
コトリ。シャーベットを置くと、彼がそっと顔を上げる。
ただ、本当に思ったことなのだ。だから、もしかしたら彼を傷つけてしまうかも知れない。そう思うと、一度開きかけた口がゆっくりと閉まりかける。
「……教えて、くれる?」
けれど、やさしく笑う彼を見て。悩んでいる彼を見て。何か、自分の言葉が引っ掛かればいいなって。そう思うから。
「わたしには、カナデくんが我慢してるように見える」
✿
「……我慢?」
「そう。我慢」
「我慢しなくていいなら、俺今アオイちゃん襲ってるよ」
「襲いたかったら襲ってもいいよ?」
「……しないよ。したくない」
「まあ、してこようものならボッコボコにしてやるけどね」
(目がッ。目が本気なんだよアオイちゃん……)
「でも、したくないんでしょう? だから、それは我慢じゃない」
彼女の言わんとしていることがわからず、首を傾げた俺にただやさしく、目の前の彼女は微笑んだ。
「カナデくんはわたしのことがまだ好きだから、ユズちゃんの気持ちを素直に受け取れない。それが君の、とってもいいところだ。気持ちがまだフラフラしてるのに、そんなことしたらユズちゃんに悪いと思うんでしょ?」
……と。
「元彼女さんっていうのもあるけど、とっくの昔から友達以上には想ってるでしょう?」
「そりゃ……まあ、本気で好きでしたから」
「でも、わたしが好きなんだよね?」
「……うん」
だから、俺は困っている。この行き場のない気持ちが。寄せられる、ありったけの優しい想いが。俺には少し、……苦しくて。
それでも彼女は、続けてこんなことまで言うんだ。
「それでいいんじゃないの?」
……って。



