すべての花へそして君へ②


「……カナデくんってさ」

「ん……?」

「ユズちゃん好き?」

「ストレートに聞くねー」

「聞かれると思ってたでしょ?」

「うん。アオイちゃんならそうすると思ってた」

「でしょうね」

「……なんかさ」

「ん?」

「こういう会話、前もしたよねーって思って」

「あ。うん。そうだね。したね」

「そうそう。あの時もアオイちゃん、真っ直ぐに聞いてくるしさ」

「あははー」

「しかも変なとこ触られたとか隠してたからさ」

「おう。そうでしたな」

「……。なんかねー」

「ん?」

「……。なんなのかねー……」


 彼は膝を抱え、ベンチの上で体操座りをして俯き、こもらせながら、少しつらそうに声を吐き出す。


「……正直に言う。 ユズちゃんには悪いけど、俺はアオイちゃんがまだ好きだよ」


 シャクっと、スプーンを刺して一口。
 口いっぱいに広がるのは、これでもかというほど柚子の味。潮風を大きく吸い込んでも、体の中には、柚子しかない。


「ユズちゃんは友達。仲の良い友達として、好き」

「うん」

「アオイちゃんは好き。まだ、好き」

「うん」

「好意はね? すっごく嬉しい。 でもこんなんだから、素直に受け取れない」

「……」

「中途半端だなって、そう思うんだ」


「だから……ちょっとしんどい」と吐いた弱音はどこか涙声で。


「おかしいよね。なんなんだろうなーって。ほんと、アオイちゃんが聞いたら絶対怒るんだろうけど……」


「最低だなって、思うよ。自分のこと」と零した本音は、ただただつらそうでしかなかった。
 膝の上に置いた腕に額を当てていた彼は、少しこちらへと顔をずらし、小さく笑おうとしている。けれどそれは、今にも泣きそうなのを堪えているようにしか、わたしには見えなかった。


「なにが、俺が手取り足取り教えてあげる、なんだろうね」と。「俺だってわかってないよ。全然」と。「彼女のことを本気で好きになったときも、君を本気で好きな今も」と。「どうすればいいかなんてこと、わからない」……と。


「教えて欲しいのは……。俺の方だよ……っ」


 誰よりも純粋な彼は、本気の想いに、潰されそうになっていた。


「……ふむ。ちょっと思ったこと言ってもいい?」

「ほへ?」