そうして縮こまった二人に、ほんのちょっぴり笑って。背を向けて一歩踏み出す。
そんな新生活は、蒸し暑さを徐々に増しながら慌ただしく駆けて行き、服装はいつしか夏服へ。補習も無事に終了。先生たちに完全勝利という形で、あっけなく幕を閉じた。
そして目の前には、暑さがわかるほど太陽に照りつけられている景色。その太陽に熱せられた地面からは陽炎。耳を劈くような、蝉たちの大合唱。見上げたそこには、大きな入道雲に晴れ渡る蒼穹。
――――そう。待ちに待った夏休みだっ!
「……怒った?」
「あおいさん、ごめんなさい」
「え?」
そんな意気込んでいたわたしの耳に届いたのは、申し訳なさそうな小さな声。そして振り向いたそこには、さっきまで大きな人間だったはずの、ちっちゃくちっちゃくなった方たち。
「……ふふ。怒ってないよ? ただ折角の旅行なんだから、楽しまないと損でしょう?」
顔を見合わせた二人は、「だね」と小さく笑い合う。
そしてわたしの横へと並び。改札口へ、ともに一歩――――踏み出した。
「ね? 言ったでしょ。こいつは弱った声に弱いから、困ったときはああ言っておけば許してくれる」
「うん。勉強になったよ九条くん。アドバイスありがとう」
そんなことで仲良くはならないで欲しい。まあ、なんだかんだで甘いのは自覚してる。でも実際怒ってなかったんだし、滅多に怒るなんてことないんだから、そんなアドバイスは必要ないんじゃないかな? って思うけど。
「あおいさんは何回目? 九条くんは毎年来てるんだよね?」
「わたしは去年はじめてきたんだ。だから2回目。アイくんと一緒で昨日ワクワクして眠れなかったよー」
「嘘ばっかり。イビキかいて寝てたくせに」
「嘘!? いびき!?」
「うそ」
「あおいさん。素直すぎるのはちょっと考えた方がいいかも知れませんね……」
だって、ヒナタくん本気で言うときがたまにあるんだもん。最近は冗談の方が割合的には多いけど、全くないってわけじゃないし……。
まあそんなこんなで! 暑い暑い夏。わたしたちはHOTな思い出をたくさん作るために、今年もやってきましたぜいっ!
「来たぜ熱海!!」
「来ましたね熱海!!」
改札を出て、アイくんと二人仁王立ちしてたら後ろから突き飛ばされた。
「通行人の邪魔なので立ち止まらないでくださーい」
「もうっ。せっかく気合い入れてたっていうのにー」
「そーだそーだ!」
けど、夏休みあってか観光客でいっぱいだったのは確かだった。すぐに反省。
「えーっと。確か広場に集合って……」
言ってるそばから「あっちゃーん!」と呼ぶ大きな声が。



