すべての花へそして君へ②


 そうして縮こまった二人に、ほんのちょっぴり笑って。背を向けて一歩踏み出す。

 そんな新生活は、蒸し暑さを徐々に増しながら慌ただしく駆けて行き、服装はいつしか夏服へ。補習も無事に終了。先生たちに完全勝利という形で、あっけなく幕を閉じた。
 そして目の前には、暑さがわかるほど太陽に照りつけられている景色。その太陽に熱せられた地面からは陽炎。耳を劈くような、蝉たちの大合唱。見上げたそこには、大きな入道雲に晴れ渡る蒼穹。

 ――――そう。待ちに待った夏休みだっ!


「……怒った?」

「あおいさん、ごめんなさい」

「え?」


 そんな意気込んでいたわたしの耳に届いたのは、申し訳なさそうな小さな声。そして振り向いたそこには、さっきまで大きな人間だったはずの、ちっちゃくちっちゃくなった方たち。


「……ふふ。怒ってないよ? ただ折角の旅行なんだから、楽しまないと損でしょう?」


 顔を見合わせた二人は、「だね」と小さく笑い合う。
 そしてわたしの横へと並び。改札口へ、ともに一歩――――踏み出した。


「ね? 言ったでしょ。こいつは弱った声に弱いから、困ったときはああ言っておけば許してくれる」

「うん。勉強になったよ九条くん。アドバイスありがとう」


 そんなことで仲良くはならないで欲しい。まあ、なんだかんだで甘いのは自覚してる。でも実際怒ってなかったんだし、滅多に怒るなんてことないんだから、そんなアドバイスは必要ないんじゃないかな? って思うけど。


「あおいさんは何回目? 九条くんは毎年来てるんだよね?」

「わたしは去年はじめてきたんだ。だから2回目。アイくんと一緒で昨日ワクワクして眠れなかったよー」

「嘘ばっかり。イビキかいて寝てたくせに」

「嘘!? いびき!?」

「うそ」

「あおいさん。素直すぎるのはちょっと考えた方がいいかも知れませんね……」


 だって、ヒナタくん本気で言うときがたまにあるんだもん。最近は冗談の方が割合的には多いけど、全くないってわけじゃないし……。
 まあそんなこんなで! 暑い暑い夏。わたしたちはHOTな思い出をたくさん作るために、今年もやってきましたぜいっ!


「来たぜ熱海!!」

「来ましたね熱海!!」


 改札を出て、アイくんと二人仁王立ちしてたら後ろから突き飛ばされた。


「通行人の邪魔なので立ち止まらないでくださーい」

「もうっ。せっかく気合い入れてたっていうのにー」

「そーだそーだ!」


 けど、夏休みあってか観光客でいっぱいだったのは確かだった。すぐに反省。


「えーっと。確か広場に集合って……」


 言ってるそばから「あっちゃーん!」と呼ぶ大きな声が。