すべての花へそして君へ②


 いつの間にかオウリくんにシャーベットを持たせていたユズちゃんが、なぜか自分の財布からシャーベット代を出していた。


「え? ゆ、ユズちゃん……?」


 “俺が出すよ……?”と、彼は財布から出した千円札を彼女に差し出すけれど、彼女は首を大きく振って頑なにそれを受け取ろうとはしない。


「ううん! 元からあたしが出すつもりだったし、いっぱいもう奢ってもらっちゃったし! 千円ならあたしが出すし!」

「え。二千円だったら出さなかった……の?」

「…………あ。おーくん! あっちの屋台行ってみようよ! スーパーボールすくいとかあるよ! 懐かしいね!」

「「「え……!?」」」


 そして彼女はオウリくんの腕に自分のそれを絡ませて、ばびゅんっと旅館へと戻る道を駆けて行ってしまった。
 ……そのせいで、お兄さんがせっかく乗せてくれたフルーツが何個か坂道をコロコロコロ……と。おう。お兄さん、ドンマイ。


「ユズちゃんは……元気だねー……」

「そ、そーだねー……」


 こっちに手を伸ばして助けを求めているオウリくんに、わたしたちは、やさしい顔で手を振るだけにしておいた。


「……。すみません。やっぱりここは俺が出すので、その千円は戴いてもいいですか?」

「あ? おう。もちろんだ。さすがだな! 色男!」


 律儀に千円を交換してもらっている彼が、なんだかちょっと可愛い。


「え。な、なに……?」

「ん~? ……ううん。色男っ」

「アオイちゃんまでやめてよ……」


 その千円札を財布に丁寧に収めながら「アオイちゃんは? 何にするの?」と、彼はため息交じりにそう聞いてくる。


「え。いやいや、わたしはほんとに自分で出すよ?」

「ここは奢らせてください。色男なんでー」


 なんだかやけっぱちみたいだけど。そこまで言うのであれば、お言葉に甘えることにしましょう。


「じゃあわたしも、さっきの子と同じものを!」