あの老舗旅館の脇道から、ずーっと真っ直ぐ。向こうの丘までは一本道。その一本道に並ぶお店の人たちが、こうして日がすっかり落ちている今でも灯りをともしている光景に、あの旅館への愛が感じられる。
「……なんだかこう、胸のところがじんわりあったかくなるね」
「え。……あーちゃん、もう冷たいものはやめときなよ?」
「えー。オウリくんのケチー」
先程まで一緒にソフトクリームを食べていた彼とともに、また丘を少し登っているところだった。
「「……あ」」
「「あ」」
並んでいた屋台も少なくなってきたなと思っていると、ある屋台の前にいるカップルを発見。
「あおいちゃ~ん!!」
両手をこれでもかと大きく使い、こちらへと手を振ってくれる彼女の腕がもげてしまう前に、彼らの元へ、隣の彼と二人駆け寄っていった。
「……何の屋台?」
「シャーベットの屋台~。いろんなフルーツがトッピングできるんだって!」
そこはベースとなるシャーベットから、トッピングするアイスフルーツも選べちゃうという。なんともまあとってもご親切な屋台だった。
「オウリくんどうする?」
「……あーちゃん??」
まるで、『さっき言ったこともう忘れちゃったのかな? このお馬鹿ちんは』とでも言いたげなオウリくんに、わたしは見ザル言わザル聞かザルで対抗した。
「へいお待ち!!」
勝負は一向に平行線のままだったけれど、それを有難いことにぶった切ってくれたのは、誰かのとっておき。
「柚子シャーベットにトッピング全部乗せだあー! このやろうっ」
とっても天こ盛り。乗せたお兄さんのドヤ顔が、どことなく引き攣って見えるのは、きっと今にも乗せたアイスが落ちていきそうだからだろう。
「ええーっと。お、おいくら……でしたっけ」
「へいっ! 締めてピッタリ二千円! ……と、言いたいところだが、可愛いお嬢ちゃんだからな。千円に負けてやるよ、この色男!」
値段が変わっても、今度は彼の顔が引き攣ったままだった。……カナデくんのお財布、何円残ってるんだろ。
「はいっ。じゃあお兄さん! ピッタリ千円ね!」
「「「「え?」」」」



