にっこりと。笑ってみたけれど、やっぱりちょっと上手くいかなくて。それを、目の前の彼が気付かないはずがない。


「何かあるなら、お話ししてくれない?」

「うーん……」

「あのね、あーちゃん。おれ、すっごい聞き上手なんだ」

「え……?」

「今まで話せなかったせいもあるけど、お話聞くのは上手だよ? それに、今はちゃんと声で答えてあげられる。もしあーちゃんがご所望なら、また文字にしてもいいよ?」

「オウリくん……」


 ほら。またこうやって大きくなったところを見せつけられる。自分がまだまだだって。……そう感じてしまう。


「でも、あーちゃんみたいな言葉は、さすがにかけてあげられそうにないけどね」

「え?」

「だって、あーちゃんには勝てっこないもん。目指したい! って思うけど、やっぱりすごいなって思う。おれの中では、あーちゃんはとっても中身は巨大だよ~!」

「それもそれで、どうかと思うけどね……」


 気遣ってくれた彼の言葉で、今はもう十分気持ちが楽になった。


「あのさ、オウリくんってこれからのことって決めてる?」

「え?」

「まだ二年生だし、どうなのかなって思ったん」

「あーちゃんのお婿さん!」


 おっと。その返事は何にも用意してなかったぞ……?


「っていうのが、昔の夢かな? 昔って言ってもつい最近までだけど」

「そ、そっか」


 そして彼は――――


「氷川はね、残念だけど吸収されちゃうんだ」


 なんてことをさらっと言う。
 どうやら過去が相当痛手だったらしく、立て直しはもう不可能とのこと。


「でも、それは……」

「あ! 違う、違うよ! あーちゃん! だから、危ないところを拾ってもらったんだ!」

「え……?」


 氷川は元々トップクラスの企業で、柊や皇に並ぶほどのグループだった。けれど彼の父、タイジュさんが“策略”に利用され、一気に右肩下がり。今、この時まで存続できていたことが不思議なくらいなのだと。


「お父さん、……あ。今のお父さんね?」


 つまりエンジュさん。彼も、氷川なんて継ぐつもりは最初からないらしく。そのままなんとか繋いではいたものの、やっぱりあのことでガタガタになったみたいで……。


「……あの」

「ん?」

「その、……お父様と、縁を切った、のに……?」

「……うん。それでも」


 たとえそれが、騙されたことであっても。その人を会社から追い出したとしても。一旦は立て直したものの、そういうは信頼関係。信頼の復活にはかなりの時間も要するし、なかなか難しい。


「そんな状況を理解してくれて、拾ってくれたところがあるんだ」

「……そちらの名前を聞いてみてもいい?」

「うん。もちろん」