「……うん。今までで一番綺麗についたかも」
満足げにそう言いながら、そっと咲いた紅い花に指を這わす。
オレがそんなことをしている間、あおいは真っ赤な顔をしておバカな口をパクパクしていた。これはこれで、バカっぽいけどかわいい。
「……金魚みたい」
「……っ、へ?」
「なんでもないよ」
ツンとそこを突いて、……つついて。突く度にぴくっとなるあおいがかわいすぎて。たまんない。
「……ねえ。オレもうしたくてしたくてたまんないんだけど」
触れるか触れないか。そんな場所まで近づいて、彼女へ白旗を提示する。
オレがもう、あと少し動いてしまえば確実に触れてしまう。それくらい、本当にほぼゼロの距離。
「あおいも、して欲しいって言いなよ。だいぶ前から物欲しそうな顔しちゃって」
「……!? そ、んな顔……」
「言ったら飛び切りのしてやるから。……ねえ。だから言ってよ」
オレはもうずっと前から。それこそあおい以上に、そんな顔してる自覚あるんだから。一度箍が外れた時よりも、ずっと前から。
「……だ。め」
それでも首を縦に振らない彼女へ「そっちが煽ってきたくせに」と文句を零す。「そんなこと、した覚えは……」には「無自覚と。壊れてるんじゃないの」と返して。
でも、あおいがする仕草、ひとつひとつに。言葉に、声に、表情に。いちいち反応するオレも、とっくの昔から壊れてる自信があるから。
「……ごめんけど」
彼女が決めた一線を越えてしまわないように、胸ポケットからハンカチーフを引き抜く。
薄さなんて、きっと1ミリもないんだろう。それを広げて広げて、……ひろげて。向こう側が透けているそれを、彼女の唇に押し当てて。
「オレはもう、だいぶ前からちゅーしたくてたまんなかったから」
だから、これは許して――と。その上から貪るように。唇から伝わる熱を感じながら、はむ……と軽く噛んで、やわらかい彼女の感触をじっくりと堪能して。
「んんっ」
「……流石に鼻で息しないと死ぬよ」
「んんーっ!」
「……無理。まだまだ足んないから」
彼女が死にかける直前。ようやく鼻で息ができるようになったのをほんの少しだけ褒めて。
「んんっ!!!!」
「は? 彼氏になれるまで、どれだけ時間が空くと思うの」
「んへ……?」
「ハイ無理でーす。もう少し付き合いなさい」
めちゃくちゃ猛抗議する彼女に知らん振りを決めて。彼氏予約を入れたオレはもうしばらく、1ミリ以下に腹が立つほどのもどかしさを感じながら、あおいを存分に味わわせてもらうことにした。



