すべての花へそして君へ①


(そうやって、素直に言えないからオレは――)

「えっ」

「そんなこと、言うんだ」


 急に縮めた距離に大慌てする彼女を組み敷いたまま、「あおいの方がかわいいに決まってるでしょ」と、そっと意地悪く耳元で囁く。
 こんな言い方でごめんねって。ちょっと思うけど、オレはいつだってこいつに意地悪はしてきたから。


「……っ、ちょ、っと……ま、って」

「待たない」

「おっ、お願いっ。……おね、がい」

「……じゃあ、理由だけ聞いておいてあげる」


 林檎のように真っ赤になっている頬は、高熱でもあるんじゃないかと思うほど。小刻みに震えている彼女からは、一筋の涙が零れた。
 悲しいとか怖いとか、そういうんじゃないってことくらいは、流石のオレも、今のあおいを見ていればわかる。


「し、心臓さんが過労で残業手当が破れて恥ずかしくて息できない」

「はい。残念ながら日本語ダメダメなあおいちゃんをオレは待ちません」

「まっ、間違えた。……もう一回」


 言い直してももう待たないんだけど……しょうがない。もう一回だけ、待ってあげよう。


「……えっと。ひ、ヒナタくんが好きすぎて、心臓が口から出てきそうだから」


 ――ちょっと落ち着くまで、待ってもらえませんかね。
 きっと、そんなことを言うつもりだったであろう言葉を紡がせるまで、オレは待てなかった。


「……! っ、ひな」


 まずは、涙を零した目元へ。本当に熱があるかも知れないと、触れた唇の熱が言っていた。まあ、たとえそうでも今は止めるつもりないけど。


「まっ、……んっ」


 必死になって止めようとする唇に、一本だけ指を添えて。静かになったかわいいあおいに、小さく「いい子」と呟いて。
 唇で触れる度、微かに声を漏らす彼女に狂おしいほどの愛おしさを感じながら。反対側の目元。こめかみ。額。鼻のてっぺん。熱くなりすぎた頬。


「……! ~~~~っ」


 苦手な耳は、しつこく。執拗にいじめにいじめまくって。
 合間に「声我慢すんな」って言っても、必死になって堪えようとするもんだから、こっちも意地になって、勝つまでやってやろうと念入りに舌を使って。


「……あっ。いや……っ、はあ、んっ」


 上がってきた声を合図に、耳から首筋へと降りて。背中に手を差し入れてファスナーを下げても、混乱気味のあおいはかわいそうにそれに気付いていない。
 それをいいことに、コートの上からひとつ、ふたつ、みっつ。前を留めているものを外して。現れた白いワンピースの首元へと、そっと指を引っかける。


「……! ひなたくんっ、なに、して」

「何って……予約?」


 滑らかな白い肌へ、噛みつくように。


「――んんっ」


 そこへ唇を寄せて、強く強く吸い付いてやる。