(そうやって、素直に言えないからオレは――)
「えっ」
「そんなこと、言うんだ」
急に縮めた距離に大慌てする彼女を組み敷いたまま、「あおいの方がかわいいに決まってるでしょ」と、そっと意地悪く耳元で囁く。
こんな言い方でごめんねって。ちょっと思うけど、オレはいつだってこいつに意地悪はしてきたから。
「……っ、ちょ、っと……ま、って」
「待たない」
「おっ、お願いっ。……おね、がい」
「……じゃあ、理由だけ聞いておいてあげる」
林檎のように真っ赤になっている頬は、高熱でもあるんじゃないかと思うほど。小刻みに震えている彼女からは、一筋の涙が零れた。
悲しいとか怖いとか、そういうんじゃないってことくらいは、流石のオレも、今のあおいを見ていればわかる。
「し、心臓さんが過労で残業手当が破れて恥ずかしくて息できない」
「はい。残念ながら日本語ダメダメなあおいちゃんをオレは待ちません」
「まっ、間違えた。……もう一回」
言い直してももう待たないんだけど……しょうがない。もう一回だけ、待ってあげよう。
「……えっと。ひ、ヒナタくんが好きすぎて、心臓が口から出てきそうだから」
――ちょっと落ち着くまで、待ってもらえませんかね。
きっと、そんなことを言うつもりだったであろう言葉を紡がせるまで、オレは待てなかった。
「……! っ、ひな」
まずは、涙を零した目元へ。本当に熱があるかも知れないと、触れた唇の熱が言っていた。まあ、たとえそうでも今は止めるつもりないけど。
「まっ、……んっ」
必死になって止めようとする唇に、一本だけ指を添えて。静かになったかわいいあおいに、小さく「いい子」と呟いて。
唇で触れる度、微かに声を漏らす彼女に狂おしいほどの愛おしさを感じながら。反対側の目元。こめかみ。額。鼻のてっぺん。熱くなりすぎた頬。
「……! ~~~~っ」
苦手な耳は、しつこく。執拗にいじめにいじめまくって。
合間に「声我慢すんな」って言っても、必死になって堪えようとするもんだから、こっちも意地になって、勝つまでやってやろうと念入りに舌を使って。
「……あっ。いや……っ、はあ、んっ」
上がってきた声を合図に、耳から首筋へと降りて。背中に手を差し入れてファスナーを下げても、混乱気味のあおいはかわいそうにそれに気付いていない。
それをいいことに、コートの上からひとつ、ふたつ、みっつ。前を留めているものを外して。現れた白いワンピースの首元へと、そっと指を引っかける。
「……! ひなたくんっ、なに、して」
「何って……予約?」
滑らかな白い肌へ、噛みつくように。
「――んんっ」
そこへ唇を寄せて、強く強く吸い付いてやる。



