すべての花へそして君へ①


「とぉぉおおりゃあっ!」

「えっ、うわっ!?」


 一人でぐるぐると悩んでいると、そんな掛け声と共にオレの体はくるりと回され、あっという間にあおいの上から退けられた。


「……え。お、重か」

「おもーい」

「……ごめん」

「へへ。……いいえ?」


 そう言う彼女は、何故かとても嬉しそうだった。……流石はM属性。


「教えてくれて、ありがとう」

「え」


 あの時。嘘をついた時よりも。くるりと体をこちらに向けた彼女は、花が咲いたかのように笑っていた。


「ヒナタくんが言ってくれたんでしょ?」

「え? ……何を?」


 ――どうしたって好きなんだからと。
 ふふっと小さく笑う彼女に、再び治まっていた甘い熱が込み上げてくる。


「だから、怖がらせちゃったのは嫌だけど、わたしのこと好きって教えてくれたから」


 ――だから今、すごく嬉しいんだと。
 ほんのり頬を染めて。ただそれだけで、またオレの心臓を暴れさせて……。


(……オレのこと、絶対殺す気でしょ)


 そんなかわいい彼女が真っ直ぐ見られなくて。ゆっくりと視線を外しながら、彼女の方を向いたまま俯せになった。


「……あり、がと」

「え?」


 小さくそう零して、慌ててベッドへと顔を押しつける。怖がっていたことを知ってもなお、悲しそうな顔じゃなく、満面の笑顔を見られたことが……。


「……すっげー、うれしい」

「……そりゃようござんした」


 明るい声を聞けたことが、純粋にオレは、嬉しかったんだ。隠そうとしたことが、嘘をついたことが、本気で馬鹿らしくなってしまうくらい。


「重いって言ったのは、別に体重が重かったわけじゃないよ?」

「ふーん」

「空気が重かったから。また『ネガ日向』になりかけてたから、わたしが吹っ飛ばして差し上げたのだよ」

「ふ~ん」

「怒ったの?」

「怒ってないし」

「拗ねた?」

「どこをどうしたらそうなるの」

「かわいいね」

「それはこっちのセリ――……はあ?」


 頭を撫でられる感触とともに聞こえた声に、出かけた声を慌てて止めて、抗議の声を上げつつ彼女の方へと首を回す。


「……怒った?」

「……嬉しくない」


 未だに頭を撫でてくる手は、あまりにも楽しそうだったから止めることはしなかったけど。でも、男のオレはかわいいなんて言われても嬉しくないから、そこは率直に物申す。

 ――オレよりよっぽど、あんたの方がかわいいに決まってるじゃん。
 ……思ってはいても、流石に口に出しては言えない。ハードル高いなあ。