「……いや、ごめん。やっぱり大丈夫じゃない」
「えっ」
完全に、顔の熱が引いたわけじゃない。けど、こんな時にオレの変なプライド持ち出してる場合じゃない。
「……あお」
振り向いたそこには、オレの予想通り、心配そうにこちらへと顔を傾けている彼女がいて。目と鼻の先。きちんと焦点が合わなくてもわかる程度には、まだ熱の引いていない自分の顔に、彼女は少し驚いたように息を呑んでいた。
「……っ、あんま、見ないで」
「ご、めん……」
見つめてくる視線に。再び上がってくる顔の熱に。……恥ずかしさに耐えきれなくなって、慌てて顔を俯かせて。
「……ごめんは、こっちのセリフ」
「え……?」
そうしながら腕を回して、オレの行動に動揺を示す彼女を、取り敢えず強く強く抱き締める。
「……なにが、ごめん?」
いつかのセリフ。オレが、隠していたいろんなことを何度も謝った時。
彼女はオレに、そう問いかけてきた。その時のオレは、隠していることは言えなかったから、ただただ『ごめん』とだけ、伝えていた。けど今は……。
「……オレ、さっき嘘ついた」
今、なんでオレはこいつに隠す必要があるんだ。隠したところで彼女にはわかってしまうんだろうけれど。たとえわからなくても、言いたくなくても、そう言えばよかったんだ。
別にこれは“やさしいもの”ではないけれど。それでも、今までこいつは“やさしい嘘”に、苦しんでいたんだから。
「……怖がってたのすら、知られたくなかったんだ」
怖がっていたことを知って、それで、悲しそうな顔をして欲しくなかったから。だからオレは、嘘をついたんだ。



