すべての花へそして君へ①


「……大丈夫、ですか?」

「大丈夫に見えますか」

「……あまり、そうは見えないから」

「いや。そういった意味では大丈夫」

「……そ、っか」


 彼女が、心配そうにこちらへ顔を向けているのがわかる。そう言いつつも上手く笑えていないことがわかる。
 見ていなくてもわかる彼女の表情に、何故か、あの時のことが不意に頭を過ぎった。


『えっと。……その、いつ怖かったのかな、って』

『心当たり、あるの』

『な、無いから聞いてるんだけど……』


 オレだって、怖くて聞けない。あおいがそうだったように。オレも、同じように聞けなかったことがあった。
 ネガ思考がそんなすぐに無くなるはずもないし、器用じゃないオレにとっては、言葉を紡ぐことさえ難しい。


(でもあの時は、言い方を間違えたわけでも、言葉が足りなかったわけでもない)


『さっきのはたとえの話』


(オレは、確かにあの時)


『だから、何もしてないんだから、そんな申し訳なさそうな顔しなくていいんだって』


 隠した。嘘をついた。あの時こそ、怖くて言えなかったんだ。
 オレが、怖くて聞けなかったことがあると。こいつを、怖がったことがあると。……知られてしまうのが。


(そういえばあの時、あおいは――)


『……そっか』


 笑ってはいたけど。どこかいつもとは違っていて。


(……わかってた、か)


 何を隠したのかまではわからないまでも、彼女ならそんなことくらいお見通しに決まってるのに。……どうしてオレは、それに気付けなかったんだろ。


(……その答えはきっと)


 隠すのに必死になってたから、……だろうな。