「……大丈夫、ですか?」
「大丈夫に見えますか」
「……あまり、そうは見えないから」
「いや。そういった意味では大丈夫」
「……そ、っか」
彼女が、心配そうにこちらへ顔を向けているのがわかる。そう言いつつも上手く笑えていないことがわかる。
見ていなくてもわかる彼女の表情に、何故か、あの時のことが不意に頭を過ぎった。
『えっと。……その、いつ怖かったのかな、って』
『心当たり、あるの』
『な、無いから聞いてるんだけど……』
オレだって、怖くて聞けない。あおいがそうだったように。オレも、同じように聞けなかったことがあった。
ネガ思考がそんなすぐに無くなるはずもないし、器用じゃないオレにとっては、言葉を紡ぐことさえ難しい。
(でもあの時は、言い方を間違えたわけでも、言葉が足りなかったわけでもない)
『さっきのはたとえの話』
(オレは、確かにあの時)
『だから、何もしてないんだから、そんな申し訳なさそうな顔しなくていいんだって』
隠した。嘘をついた。あの時こそ、怖くて言えなかったんだ。
オレが、怖くて聞けなかったことがあると。こいつを、怖がったことがあると。……知られてしまうのが。
(そういえばあの時、あおいは――)
『……そっか』
笑ってはいたけど。どこかいつもとは違っていて。
(……わかってた、か)
何を隠したのかまではわからないまでも、彼女ならそんなことくらいお見通しに決まってるのに。……どうしてオレは、それに気付けなかったんだろ。
(……その答えはきっと)
隠すのに必死になってたから、……だろうな。



