すべての花へそして君へ①


「……んむ」


 けれど触れたのは、オレが求めたものじゃなかった。


「……だめ」


 スッと間に入り込んだのは、彼女の細い指先。その指も、普段は嫌いではないんだけれど、今この状況においてはものすごく邪魔な存在だ。


「んん」


 今度はこちらが抗議する番。押しつけるように、剥くれながらぐっと顔を近づけてやる。


「……! ……だっ、ダメ」

「んんん(なんで)」


 理由はわかっている。わかってても言ったからね、オレは。


「……したいように、って。やりたいようにって……」

(ん?)


 僅かに顔を背けた彼女は、何かをもごもごと呟いている。
 でも、確かに何かを言っていたはずの彼女は、すぐに無言になってしまった。

 幾何か様子を窺っていると、音に出してはいないものの、唇を小さく動かしていることがわかる。じと目で見つめることほんの少し。この至近距離で彼女が平静で居られるはずもなく。


「……!?」


 そして、オレだって平静で尚且つじっとしていられるはずもなく。未だ触れている彼女の指先の感触を確かめるように唇を動かすと、たったそれだけで顔を真っ赤にしながらビクゥッ! と震わすものだから、こちらまで少し驚いてしまった。


「……なーに」


 けど流石にどうしたんだろうと心配だったから、ベッドに手を突いて少し体を起こしてあげる。そしたら、その時を待っていたと言わんばかりに大慌てで顔を両手で覆うものだから。


「……なに。間接だったらいいの?」

「!? ちがっ……、そういうんじゃないのっ!」


 くぐもった彼女の声は、それはもう大慌てで。必死になって否定してくるそんな様子が、すごくかわいく見えた。


「だったらなに。言いたいことはハッキリ言って」


 じゃないとちゅーすんぞコラと。
 襲わないと言ったあの時は確かにそのつもりだったのに、今こうなってる時点で襲ってる……よなと。ちょっと頭を過ぎったりもしたけど、それは置いておいて。


「し、……したいように、するって」

「うん。言ったね」

「や、やりたい――」

「やってもいいなら今ここでやる」

「なにを!?」


 本音が出た。待った待った。今はその話をしてるんじゃない。
 オレが言うのもなんだけど、いつもよりもだいぶ言葉数が少ない彼女に、少々不安を感じてしまう。そうさせてしまう原因が、今のオレにあるのかと。


「口は……だめ」


 でも、そんな不安も恥ずかしがっている彼女を目の前にしていると、すぐに吹っ飛んでしまった。『まだ』という言葉を隠した彼女は今、どんな顔をしているんだろう。

 ……知りたい。