――のも一瞬。
「ねえ。さっきなんで全然こっち見なかったのか教えて」
「え?」
「なんで大股10歩、ちゃんと数えていい子で待ってたの」
「え」
「……なんで、何も聞いてこなかったの」
「……」
「なんで……オレの言ったこと、すんなり受け入れたの」
「ヒナタくん……」
オレは、怒濤の質問攻めを実行。言葉を紡ぐほど、自分の不甲斐なさが湧き上がってくるというのに、それを掻き消すようにこいつへの想いが溢れ出していた。
「わかってるつもりだった。でも、それはほんとに『つもり』だったかも知れないと思って。……今、ちょっと悔しい」
ちょっとどころじゃない。悔しくて悔しくて、自分が情けない。
こいつは、オレのことをわかってくれたのに。オレは、こいつのことを何一つわかってなかったんだから。
「だから……教えて。カエデさんに負けたとか、マジで嫌だから」
「……ヒナタくん」
それだけで「そんなことないよ」と言われているようだった。そのやさしさが、……今だけは無性に苦しい。
「そう言ってくれるってことは、ちゃんとわかってくれたんだね」
「……。あー。悔し。ほんと……やだっ」
でも、ハッキリと彼女から言われた今は。
「ありがとうございましたって、言えた? ごめんなさいは、いらないって言われたでしょう」
「……はあ。あー……悔しいな、もう……」
それ以上に、嬉しさが込み上げていた。
こいつに……勝とうと思う方が無理な話で。別に勝ち負けじゃないんだけど。でも、こいつにだけは負けるのも悪くない。だから、あおいの側は心地いいんだ。



