「もうっ、ふざけないでよ」と返ってくる声は軽くパニクっているようで、その証拠と言わんばかりに鼓動が速まっていた。
今にも許容量がオーバーしそうな彼女に小さく笑ったあと、そっと片腕で腰を引き寄せる。
「……ヒナタくん?」
「ここは内緒の場所なんだって。特別に教えてくれた」
「……? 誰が?」
「カエデさん」
「な、何のために……?」
「それは……」
オレが、もうだいぶ前から限界を超えていたから。
……というのが本音だけど、流石にこれは伏せておきたい。
「……なんか知らないけど教えてくれた」
「そう、なんだ」
でも、どうやら彼女に隠し事はできないらしい。そんなの最初から知ってることだけど。
「……ちょっとさ、こうしたかったから」
正直に話すと、体が微かに強張った。意識されるのは嬉しいけど、怖がらせたいわけじゃない。軽くだけど、小さく背中を叩いておく。
「ど、どう反応すればいいか、わからない」
「別に、無理に返さなくていい」
何かを言おうとしたのか。ぽそぽそとそう零した彼女は、何故か戸惑いつつも申し訳なさを出していた。
「……そっか」
でも次に出たのは、残念そうな、がっかりしたような声だった。
(あ。……ちがう)
しまった。言葉が足りなかった。いや、言い方を少し間違えた。
「……無理に」
「……え」
そう思って、言葉を改めて紡ぐ。
「……無理に言おうとしなくても、十分伝わってる」
「……そっか」
今度返ってきた音は、とても軽やかに弾んでいたから。ほっと小さく、息をついた。



