すべての花へそして君へ①


「もうっ、ふざけないでよ」と返ってくる声は軽くパニクっているようで、その証拠と言わんばかりに鼓動が速まっていた。
 今にも許容量がオーバーしそうな彼女に小さく笑ったあと、そっと片腕で腰を引き寄せる。


「……ヒナタくん?」

「ここは内緒の場所なんだって。特別に教えてくれた」

「……? 誰が?」

「カエデさん」

「な、何のために……?」

「それは……」


 オレが、もうだいぶ前から限界を超えていたから。
 ……というのが本音だけど、流石にこれは伏せておきたい。


「……なんか知らないけど教えてくれた」

「そう、なんだ」


 でも、どうやら彼女に隠し事はできないらしい。そんなの最初から知ってることだけど。


「……ちょっとさ、こうしたかったから」


 正直に話すと、体が微かに強張った。意識されるのは嬉しいけど、怖がらせたいわけじゃない。軽くだけど、小さく背中を叩いておく。


「ど、どう反応すればいいか、わからない」

「別に、無理に返さなくていい」


 何かを言おうとしたのか。ぽそぽそとそう零した彼女は、何故か戸惑いつつも申し訳なさを出していた。


「……そっか」


 でも次に出たのは、残念そうな、がっかりしたような声だった。


(あ。……ちがう)


 しまった。言葉が足りなかった。いや、言い方を少し間違えた。


「……無理に」

「……え」


 そう思って、言葉を改めて紡ぐ。


「……無理に言おうとしなくても、十分伝わってる」

「……そっか」


 今度返ってきた音は、とても軽やかに弾んでいたから。ほっと小さく、息をついた。