(勝手にとか言われても、一体どう使えと……。どう考えてもヤバいでしょ)
何考えてるの、あの人。さっき止めたばっかじゃん。何考えてるの? バカなの? あの人もバカなの……?
「ち、ちゃんと大股10歩先で、いい子にして待ってたのにいー……」
今のオレを、こいつと二人っきりにして。しかも、そんなとこまでの配慮とか。
「大股10歩って言ったのに8歩しかなかったし」
――カエデさん。マジありがとう。それしか言いようがない。他に何言えって? パシってごめんねーぐらいでしょ。
「ええ!? ちゃんと数えてたの聞こえなかった?」
「オレ8歩だったし。2歩足んないし」
「いやいやコンパス違うから! 歩幅考えてえー……」
そんな彼女の言い分も耳半分に、オレはただひたすら目的の場所へと突き進んでいく。
(取り敢えず、誰にも擦れ違うことはなかったから)
静かに音を立て、離れの玄関扉を開ける。開いてすぐのホールにも、人らしい人影は見当たらない。
それを確認しつつ、付かず離れずのところにいるあおいも確認しつつ、オレは右の階段近くにある扉へと歩いて行く。
「……ん? ここ?」
「あ。でもここは……」と後ろから小さく聞こえてくる。
もしかしたら、以前こいつもこの部屋に入っているのかも知れない。流石のこいつでも、ここまで来たらこの扉の記憶くらいはあるんだろうし。
「こっち」
彼女の手を引き、部屋の中へと入る。
いきなりこんなことをしている余裕のないオレに、握った手からは微かに動揺が窺えた。けどごめん。何回も言ってるけど、本当に限界だから。
この部屋の奥の扉は、誰にも見つからない――所謂、監視カメラとかもついてない部屋。
(え。……ここ、仮眠室じゃん)
バカ。カエデさんのバカ。流石に、そこまでの配慮は要らないからっ。
(いや、カエデさんがそこまで配慮してたかどうかはわからないけど)
そんなことを考えてるオレを、今頃カエデさんはニヤニヤ笑ってるかも知れない。……やめよう。もう、何も考えない。



