けど、ふう……と息をついたあとのヒナタは、さっきよりはだいぶ落ち着いたように見えた。
「すみません。……なんですか?」
流石に不味いと思ったんだろう。今のままアオイちゃんに飛びついて、嫌われるかも知れないって思ったんだろうな。……んなわけねーのに。
まあ、気持ちはわからねーことないからな。これは、俺からちょっとした労いだ。
「今のそんなお前に、とっておきのことを教えてやろう」
ニヤリ。そんな笑みを携えて。
「お前のお悩みも、きっとこれで解消するだろうよ」
常に彼女のことを考えているこいつなら有り得るだろう。だから俺は、そんなバカにとっておきのことを教えてやった。
「どうするかはお前次第。まあお前がどうするかなんてこと、俺じゃなくても予想が付くだろうがな」
けれど、俺の予想に反して未だに目の前にいるヒナタへ、小さく目を丸くした。てっきりもう飛び出していってると思ったのに。
「取り敢えずは、予想通りじゃなかったってところですかね」
「あ? ……ああ。そうだな」
「それじゃあもう一つ。恐らく、全然予想してないこと言っていいですか」
続けざまに紡いだ言葉に、俺はただただ首を傾げた。こいつが、なんでそんなことを言ってきたのかわからないからだ。
「なんですか。ただお使い頼んだだけじゃないですか」
いや、別にいいけどよ。あいつらも無事帰ってきたことだし、心配事もなにもねーけど。
「今このタイミングで、なんでそんなもん……」
「食べたかったんで」
「パシリじゃねーか」
「それと……」
「ん?」
ぼそぼそと。ポケットに手を突っ込みながら、だらりと適当に立ってやがるこいつは呟く。
「……あいつも変わったんで」
「は?」
「オレも。……変わらないと」
「……そうか」
それで? お前はこれを食べたら何かに変身でもするのかよ。……まあ、冗談はこのくらいにしておくか。



