「……アオイちゃんには言ったのか。許してもらえたのか」
「『許すも何も、助けてもらったんだから』って言われました」
「だろうな」
「それをわかってねーのはお前だけだろうよ」と。先程よりは幾分か柔らかい雰囲気になった彼は、パコッと軽く、オレの頭を叩いた。
「でもオレは、皆さんにいろいろ無理言って」
「違うだろヒナタ。お前は『一緒に助けてくれ』って俺らにお願いしたんだろうが。俺らもアオイちゃんを助けたかったから協力した。それだけだ。謝んな」
そんな風に言われたら、オレは、この胸の中のものをどうすればいいんだ。
「だからな、お前が皆さんにするのは、謝ることでも頭を下げることでもねえ。『一緒に助けてくれてありがとう』って、そう言うんだよ」
もちろん、それだって言いたい。でも、言えない。オレなんかが、言えるはずもない。
「アオイちゃんは『ごめん』も言ったけどな、ちゃんと『ありがとう』も言っただろうが。お前も一緒だ。誰がお前にそんなこと言って欲しいと思ってんだよ。誰もいねーよ」
……わかってる。そんなこと……わかって、るんだ。
(わかってるから、オレは……っ)
でも、そんなオレの気持ちも、カエデさんにはお見通しのようだった。
「……だよな。知ってるよな、それくらい。だから、そんなやさしい人たちに“そういうこと”を言った、した自分が許せねーんだよな」
「たとえ冗談でも、やっぱりあいつを助けるために脅すようなこととか言ったんです。……なんとかして、一緒に助けて欲しくて」
最低なやり方だってわかってた。そんなのもう、最初っからだ。
でも、そうすることを覚悟したのだって、……最初っからだ。
「……なあ、ヒナタ」
不意に、彼は何かに驚いたような……そんな仕草を見せた。
「……? ……なんですか」
「俺も最初はわからなかったけどな」
いや、驚いたというよりも、“何かが一致した”ような。支えが取れてスッキリしたような面持ちで、彼は言葉を続ける。
「どうしてアオイちゃんが何にも言わずに、何も聞かずに、こっちを見ずに、いてくれるのかわかってるか」
それは、オレがカエデさんに謝りたかったから。だからそれに気が付いてくれて。そんな姿を、オレがあいつに見て欲しくないっていうのも、恐らく気付いてくれたからで……。
「確かにな、『頭を下げたいんだ』『だから見ないでくれ』って、お前の気持ちがアオイちゃんに伝わったかも知れねえ」
酌み取ってくれて、すごい有り難い。複雑ではあるけれど。
(でも、まだ他に……?)
あいつは、――何を思ってる?



