すべての花へそして君へ①


 ――スパコ~~ンッ!!!!


「……え」


 上がりきる前に、理不尽な痛みが頭を攻撃した。
 何が起こったのかわからなかったオレは、上げようと思っていなかった視線を上げて、その原因を確認する。


(……もう突っ込むのも面倒臭いな)


 いい音がした頭を摩りながら、恐らく原因であろう彼がガッチリ持っているスリッパには、敢えて触れることはしなかった。


「よくやった」

(……え)


 聞き間違いかと思って、視線で『ワンモア』をお願いする。


「だから、よくやったっつってんだ」

「……言葉と行動が全然伴ってないんですけど」


 叩かれた頭を指差しながら、ちょっと文句を言う。言ってもいいと思う。


「言っただろうが。しょうもないことしたらはっ倒すって」

「言ってません。『その緩みきった顔打っ叩くかんな』って言ったんです」

「揚げ足取るんじゃねーよ」

「しょうもないことも、オレは言ってませんし、……してません」


 オレができる精一杯を。謝罪しかできないオレに……。


「……そんなこと、言わないでください」

「いや言う。そんなしょうもないことをして、一体何になる」


「一番最初に褒めてやりたかったのに、何やってんだ」と。肩を竦めたカエデさんは、オレに呆れきっていた。


「……でも、オレは、カエデさんにいろんなことさせて」

「まあそうさな。そりゃもう、扱き使われまくったな」


「でもそれだけだ」と。呆れた息を吐きながら、オレの情けない顔を彼は一瞥した。


「謝る相手がそもそも違うだろ。それに俺は、謝って欲しいなんざ思ってねえ」

「……っ、けど。カエデさんには特に」


『口答えすんじゃねーよ』って。気迫たっぷりな顔とその横にスリッパを携えた彼は、……なんか別に怖くなかったけど、取り敢えず黙っておくことにする。