――スパコ~~ンッ!!!!
「……え」
上がりきる前に、理不尽な痛みが頭を攻撃した。
何が起こったのかわからなかったオレは、上げようと思っていなかった視線を上げて、その原因を確認する。
(……もう突っ込むのも面倒臭いな)
いい音がした頭を摩りながら、恐らく原因であろう彼がガッチリ持っているスリッパには、敢えて触れることはしなかった。
「よくやった」
(……え)
聞き間違いかと思って、視線で『ワンモア』をお願いする。
「だから、よくやったっつってんだ」
「……言葉と行動が全然伴ってないんですけど」
叩かれた頭を指差しながら、ちょっと文句を言う。言ってもいいと思う。
「言っただろうが。しょうもないことしたらはっ倒すって」
「言ってません。『その緩みきった顔打っ叩くかんな』って言ったんです」
「揚げ足取るんじゃねーよ」
「しょうもないことも、オレは言ってませんし、……してません」
オレができる精一杯を。謝罪しかできないオレに……。
「……そんなこと、言わないでください」
「いや言う。そんなしょうもないことをして、一体何になる」
「一番最初に褒めてやりたかったのに、何やってんだ」と。肩を竦めたカエデさんは、オレに呆れきっていた。
「……でも、オレは、カエデさんにいろんなことさせて」
「まあそうさな。そりゃもう、扱き使われまくったな」
「でもそれだけだ」と。呆れた息を吐きながら、オレの情けない顔を彼は一瞥した。
「謝る相手がそもそも違うだろ。それに俺は、謝って欲しいなんざ思ってねえ」
「……っ、けど。カエデさんには特に」
『口答えすんじゃねーよ』って。気迫たっぷりな顔とその横にスリッパを携えた彼は、……なんか別に怖くなかったけど、取り敢えず黙っておくことにする。



