「はああぁぁ……」
頭上から降ってくるのは、これでもかというほどの大きなため息。それでもオレは、下げていたまま頭は上げなかった。
「……ヒナタ。頭上げろ」
呆れた声が、そうオレに言ってくれた。……けれどオレは。オレは、そんなにすんなり頭を上げていいほど、軽いことをしたわけじゃない。
カエデさんだけじゃない。謝るだけじゃ済まない罪を、オレは多くの人に背負わせてしまった。でも結局無力なオレには、こうやって頭を下げて許してもらうことしかできないけれど……。
(でも、それでいい)
たとえ許してもらえなくても。オレは、あいつのためにいろんなことをしてきたんだから。
「いいから上げろ。その顔はっ倒してやるんだから」
「そんなこと言われて上げる奴なんていません」
「そう言ってくる辺り、全然謝る気なんてねーんだな」
「……口が滑りました。いつものノリで」
「違うだろ。情けない顔してんだろ。だから上げらんねーんだろ」
「……そんなことは、ありません」
ただ、今までのことをオレは……謝りたい、だけなんだ。
「……はあ。上げろ。いいから。端から見たら執事が客に頭下げさせてる状態だぞ。どうしてくれるんだ、近所の俺の評判落ちちゃったらよう」
カエデさんの近所の評判がどれほどまでかは知らないし、その辺に関しては正直オレ的にはどうでもいいけど。上げなければ、彼は何も言ってくれないんだと。そう感じ取ったオレは、視線は上げないまま、ゆっくりと頭を上げ――



