(不味い)
珍しいことに、こいつは気が付いていないみたいだ。彼女の向こう側。大通りを歩く、よくよく見知ったみんなに。
『ちょっとごめん』
何を思ったのか。体勢の悪いまま、オレは目の前の彼女を腕の中へと引き寄せた。隠れるように、鞄を彼女の腰へ乗せて。
(……なんでオレ、わざわざ隠れるようなことを……)
おかげですっぽり表の通りからは見えなくなった。……あおいは尻から下、バッチリ見えてるけど。でも、理由なんてわかりきってることだ。
(今は……まだ、誰にも邪魔されたくない)
ただの、オレの我が儘。彼女にとっては、どうかなんてことわからない。
でもまだオレは。もう少しだけ……そりゃ、できることならもうずっと、閉じ込めておきたいくらいだけど。それじゃあ、本当にオレの我が儘になってしまうから。
『じっとしてて』
もうちょっとだけ。今まで散々頑張ってきたんだ。これくらいのご褒美くらい、くれたっていいでしょ。
彼女の体を支えながら。重くないように大きな鞄も支えながら。そんな言い訳染みたことを心の中で呟いて、みんなが通り過ぎていったのを確認し、小さく息を吐く。
(今いいとこなのに、邪魔なんかされたらたまったもんじゃない)
……すげえ本音が出た。絶対黙っとかないと。らしくない。
けど、そんな自分に少し驚いていたのも束の間。
『大丈夫じゃない』
また様子がおかしい彼女に声をかけたけど、彼女から返ってくるのは、今にも泣き出してしまいそうな涙声と、そっとオレの胸を押す震えた手だった。
そして入る、三度の邪魔。今は、こんな状態のあおいをそっちのけにはできなかった。……なのにこう、ほんの少しだけ時間を置いて何度も来られると、放っておくわけにもいかず。
(いいところ……は、もう完全にそれどころじゃなくなったし)
少なからず、オレも今のこいつがどうしてこんな風になってるのかわからなくて戸惑ってたから、一応確認だけすることにした。
《先行ってるぞ》 byチカ。
《遅くならないようにね》 byオウリ。
《ここは外だからな》 byレン。しかも、レンのには続きがあって。
《ちなみに今通り過ぎたことを
知ってるのはオレだけだ
そこは安心しろ》
誰かにバレてる時点で、安心できるわけねえだろ。



