(……でもなんか、ちょっとパニクってるみたい)
そうしてまた、話を逸らしたけれど。……危なくて、だからちょっと引き寄せただけだったのに。でも、それが彼女を混乱させて……。
(そんな風に、させたいわけじゃないんだ、オレは)
上手く笑えないまま目が合って。でも、もう今更取り繕ったところで彼女にはお見通しなわけだし。
勇気を出して、何がそんなに不安なのか。それを聞こうとした時だった。
『……ズルい?』
まさかそんなことを言われるとは思わなくて、腑抜けた声しか出てこなかったけど。
『……わたしばっかり、ね』
――ふざけんな。んなわけねえだろ。
オレだって、あんたの一挙一動に、舞い上がったり、落ち込んだり、不安がったり、喜んだり、怖がったり……。
(めっちゃ我慢してるんだってば……っ)
かわいいって。そう思う度に、何度このまま家に帰ろうと思ったか。このかわいい彼女を、何度独り占めしたいと思ったか。この長い間想い続けていたものを、何度無理矢理押さえつけたか。
……そんなの、ここ数十分の間で、数えらんないくらい思ったっつの!
押さえつけてんだっつの! 現在進行形で!! でも、そんなのもう意味ないくらいには、平常心じゃいられないんだっつの!!
ただでさえ、もう嫌というほどオレのかっこ悪さはさらけ出してきたのに。
(マジかわいいこと言うのやめて本当に……)
よっぽど、オレなんかよりもあおいの方が、ズルいに決まってるじゃんか。自分に嫌気が差してくる。
(……また)
けどまた、彼女のやさしい手で幾らか気分が救われた。自分がこんな奴だってことは自覚してるし、もうどうしようもないし。
……でも、それでも。この手はもう、離したくはなかったから。
『……だから、言えない代わりに『言いたいこと』は言って、って言ってるんだってば』
こんな、情けないオレにできるのは、あおいの不安を聞いてあげることくらいだから。
解消できるかも知れない。できるようなら、全力でそんなもん消してやる。そうじゃなくても、オレがなんとかしてやる。
(これからは、オレが隣にいるから)
オレなんかの言葉で解決できなくても、その解決の糸口に近づけられればそれでいい。
絶対にオレが、あおいの助けになって――



