すべての花へそして君へ①


(……でもなんか、ちょっとパニクってるみたい)


 そうしてまた、話を逸らしたけれど。……危なくて、だからちょっと引き寄せただけだったのに。でも、それが彼女を混乱させて……。


(そんな風に、させたいわけじゃないんだ、オレは)


 上手く笑えないまま目が合って。でも、もう今更取り繕ったところで彼女にはお見通しなわけだし。
 勇気を出して、何がそんなに不安なのか。それを聞こうとした時だった。


『……ズルい?』


 まさかそんなことを言われるとは思わなくて、腑抜けた声しか出てこなかったけど。


『……わたしばっかり、ね』


 ――ふざけんな。んなわけねえだろ。
 オレだって、あんたの一挙一動に、舞い上がったり、落ち込んだり、不安がったり、喜んだり、怖がったり……。


(めっちゃ我慢してるんだってば……っ)


 かわいいって。そう思う度に、何度このまま家に帰ろうと思ったか。このかわいい彼女を、何度独り占めしたいと思ったか。この長い間想い続けていたものを、何度無理矢理押さえつけたか。

 ……そんなの、ここ数十分の間で、数えらんないくらい思ったっつの!
 押さえつけてんだっつの! 現在進行形で!! でも、そんなのもう意味ないくらいには、平常心じゃいられないんだっつの!!

 ただでさえ、もう嫌というほどオレのかっこ悪さはさらけ出してきたのに。


(マジかわいいこと言うのやめて本当に……)


 よっぽど、オレなんかよりもあおいの方が、ズルいに決まってるじゃんか。自分に嫌気が差してくる。


(……また)


 けどまた、彼女のやさしい手で幾らか気分が救われた。自分がこんな奴だってことは自覚してるし、もうどうしようもないし。
 ……でも、それでも。この手はもう、離したくはなかったから。


『……だから、言えない代わりに『言いたいこと』は言って、って言ってるんだってば』


 こんな、情けないオレにできるのは、あおいの不安を聞いてあげることくらいだから。
 解消できるかも知れない。できるようなら、全力でそんなもん消してやる。そうじゃなくても、オレがなんとかしてやる。


(これからは、オレが隣にいるから)


 オレなんかの言葉で解決できなくても、その解決の糸口に近づけられればそれでいい。
 絶対にオレが、あおいの助けになって――