『ぶはっ』
『――!?』
――見たら、ものすごい変な顔してた。めっちゃ笑った。すげえウケた。
何か困ってるんだろう。悩んでいるんだろう。わかっていたけれど、まさか本当に目をぐるぐる回して、泡吹いてるまでとは思わないでしょ? 申し訳なさよりも先に、顔見て笑ったわ。なんかごめん。
(まあおかげで、怖がってたのが嘘みたいにどこかに行ったけど)
また助けてもらったなって。笑いながらだったけど、なんとか聞くことができた。……いや。笑いながらだったから、ちゃんと言えたんだと思う。
(でも、だからってオレと手を繋ぐことに不安を感じていたのは、きっと間違いじゃない)
だから、そっと離していた手を差し出す。
(嫌じゃないことはわかってる。でもオレは、それがなんでかまではわからない)
わかってしまえば、本当に言葉なんて必要なくなるんだろう。まあ、そんなの一番恥ずかしいことこの上ないけど。
(……オレの、ヘタレ)
それでも、この手を取ってくれるか不安だったってことも、躊躇いもなくこの手を取ってくれたことに、心の底からほっとしたことも。目聡い彼女は、やっぱりわかってしまったようだった。ほんと、格好つかない。
『やっば。めっちゃ動揺してるし。おもしろ』
『……んん?』
『的な感じで思ってたんだけど』
『おい』
だから、もう隠してもしょうがないと思ってそこは吹っ切れることにしたけど。
『いや、ちょっと待て。慌てさせたいって、なんだ』
『え。それ以外にどう説明しろと――、……っ!』
たまたま振り向いたからよかったものの、そこまで空いていないあいつの横の隙間を走ろうと、後ろから猛スピードで自転車が走ってきていることに気付いた。
『ごめん。大丈夫だった?』
走り去ってから、腕の中の彼女にそう問いかける。けれど。
(……え)
様子がおかしくて。どうしたのかと、声をかけて。『なんでもない』と返す彼女の髪の間から出ていた耳の色は、落ちていっている陽のせいではなくて……。
(……やば)
ほんの少し、震えながら俯いている彼女が。……かわいかった。今すぐここで、抱き締めてしまいたいほど。



