「よっこいしょ」
「えっ。いや、ヒナタくん……」
「ん? なーに?」
区切りをつけに行かねばならぬと、今気持ちを固めたじゃあーりませんか! もちろんそれは、あなたも対象外じゃありませんってばよ。
「重いから降りてください」
「さっきは軽いって言ったじゃん」
「……軽いから降りてください」
「降りる必要がないと思うので降りません」
再び先程の定位置に戻ってきたせいで、まわりからの視線が蔑むような目に変わった。まあそれはいいとしてだ。よくないけど。
「ヒナタくん。わたしはまだ、やることがあるから……」
「あおいにはあるけど、オレにはないし」
「……えっと」
「だから、オレはやりたいようにやる。さっきからそう言ってる」
グイッと伸びてきた長い腕は、片腕はわたしから落ちないように。片腕は器用にスマホを触っていて。わたしがそう口にする前と、何ひとつ変わっていない様子のヒナタくんに、感謝はすれど、呆れるなんてこと絶対にない。
「けど、……すごく、困る」
「困らせてるんだから当たり前」
「……!」
「嫌じゃないんなら問題ないよね」
「い、いや。今のわたしにはちょっと問題が……」
「なんで? さっきからうるさい心臓さんが壊れるから?」
「っ!?」
ああ言えばこう言う。でも、勝てっこないんだって。この人にだけは、最初から勝ったことなんてないんだから。
「オレさ、そのままでいいって言ってくれたけど、多分無理だ」
「ふえっ?」
「いや、絶対無理」
「……ヒナタくん?」
あの頃……全てを隠していた頃は、とことん自分からわたしを遠ざけようとしていた。わたしに、偽っている自分を知られたくなくて、壁を作って。
「その必要なんてなくなったし。遠ざけろとか壁作れとか、今はもう絶対に無理。したくない」
でも、本当に迷惑なら。……本当に、嫌なら。その時は、ちゃんと言ってくれと。言葉をくれと。
「……嫌なわけがない」
「それはよかった」
そんなことを言われて、また心臓がうるさくなった。わたしが、そうなるとわかっていて言ってきているのだろうか。……やっぱりヒナタくんはズルい。
「ヒナタくんも。その時はちゃんと言って?」
その時など、来て欲しくないけれど。でも、ずっと黙っておかれるよりはよっぽどいい。彼の気持ちは、何よりも大事にしたい。
「わかった」
しかもこういう時はまたハッキリ返事するんだよね。
考えてることはわかってる。暴走するなってことでしょ? 変態になるなってことでしょ? ……頑張ります。



