すべての花へそして君へ①


「よっこいしょ」

「えっ。いや、ヒナタくん……」

「ん? なーに?」


 区切りをつけに行かねばならぬと、今気持ちを固めたじゃあーりませんか! もちろんそれは、あなたも対象外じゃありませんってばよ。


「重いから降りてください」

「さっきは軽いって言ったじゃん」

「……軽いから降りてください」

「降りる必要がないと思うので降りません」


 再び先程の定位置に戻ってきたせいで、まわりからの視線が蔑むような目に変わった。まあそれはいいとしてだ。よくないけど。


「ヒナタくん。わたしはまだ、やることがあるから……」

「あおいにはあるけど、オレにはないし」

「……えっと」

「だから、オレはやりたいようにやる。さっきからそう言ってる」


 グイッと伸びてきた長い腕は、片腕はわたしから落ちないように。片腕は器用にスマホを触っていて。わたしがそう口にする前と、何ひとつ変わっていない様子のヒナタくんに、感謝はすれど、呆れるなんてこと絶対にない。


「けど、……すごく、困る」

「困らせてるんだから当たり前」

「……!」

「嫌じゃないんなら問題ないよね」

「い、いや。今のわたしにはちょっと問題が……」

「なんで? さっきからうるさい心臓さんが壊れるから?」

「っ!?」


 ああ言えばこう言う。でも、勝てっこないんだって。この人にだけは、最初から勝ったことなんてないんだから。


「オレさ、そのままでいいって言ってくれたけど、多分無理だ」

「ふえっ?」

「いや、絶対無理」

「……ヒナタくん?」


 あの頃……全てを隠していた頃は、とことん自分からわたしを遠ざけようとしていた。わたしに、偽っている自分を知られたくなくて、壁を作って。


「その必要なんてなくなったし。遠ざけろとか壁作れとか、今はもう絶対に無理。したくない」


 でも、本当に迷惑なら。……本当に、嫌なら。その時は、ちゃんと言ってくれと。言葉をくれと。


「……嫌なわけがない」

「それはよかった」


 そんなことを言われて、また心臓がうるさくなった。わたしが、そうなるとわかっていて言ってきているのだろうか。……やっぱりヒナタくんはズルい。


「ヒナタくんも。その時はちゃんと言って?」


 その時など、来て欲しくないけれど。でも、ずっと黙っておかれるよりはよっぽどいい。彼の気持ちは、何よりも大事にしたい。


「わかった」


 しかもこういう時はまたハッキリ返事するんだよね。
 考えてることはわかってる。暴走するなってことでしょ? 変態になるなってことでしょ? ……頑張ります。