「わたしもさ、人のこと言えないんだけどね。ネガティブだから」
「え?」
きっとわたしも、言ってしまうだろう。わたしも君と同じネガティブだから。
「だから、わたしが同じようなことを言ってしまった時は教えて欲しい」
そっと、もう一度ぎゅっと握る。何を言われるのだろうかと、不安げに揺れる瞳を真っ直ぐ見つめて、口にする。
「わたしの大好きなヒナタくんを、『こんなオレ』って言って欲しくないなって」
悲しさを。寂しさを。ほんの少しだけ匂わせながら、小さく苦笑い。
「ヒナタくんは、何の気なしに言ったんだと思うんだけど。……わたしには、自虐してるように。卑下してるように聞こえちゃったから」
そんな気はなかったんだろうけど。いや、あったかも知れないけど。でも、大好きな人をそんな風に言われるのが、たとえ言ってるのが本人だったとしても嫌だったんだ。
「だから、そんなヒナタくんは、ちょっと嫌」
「……すみません」
でもヒナタくんの場合は、本当に自分のことを『こんなオレなんか』とか『どうせオレなんか』とかって、思ってる節があるから……。
「わたしが同じように言ったらきっと、ヒナタくんもわたしに同じこと言ってると思う」
「そうだね。全力で否定する」
「でしょ? それと一緒」
「いやでも、オレは本当に……」
「そう思ってるから」と続けて言いそうな口を、指先でそっと止めた。
「もうね、癖になっちゃってると思うんだ。わたしも同じ」
「……オレはそうだって自覚あるけど」
「自分が使うのはね、気にも留めなかった。でも、ヒナタくんが言ったら嫌だなって思った。……ううん。君が今までしてきた話を聞いてる時から思ってたんだ。あんまり言わなかったけど」
「…………」
「無意識にそうやって自分を傷付けるような言葉を、大事なヒナタくんに使って欲しくないんだ」
「……努力、する」
そう言ったヒナタくんに、ちょっと驚いた。少しずつ素直になっていっている彼を垣間見えたことが、やっぱり嬉しい。
「大丈夫。またヒナタくんが言っちゃったら、わたしがこれから、何度だって怒ってあげるからね」
「頑張ります」
「おー。じゃあ、『ネガ日向』から『ポジ日向』にモードチェンジだね」
「ロボットみたいだからやめてくださーい」
「はーい。……ははっ」
日頃から使っていると、たとえ悲しい言葉でも、やっぱりどうしても無意識に出てしまう。
それを、ふとした瞬間に出してしまった時。もう取り返しがつかないことも、もしかしたらあるかも知れない。自分にはそんなつもりなくったって、相手にどう伝わるかなんてこと、わかんないから。
わたしだって、万能じゃない。そんな言葉も、気を付けていても使ってしまうこともあるだろう。
だからその時は、ずっと隣にいてくれる彼に教えてもらえばいいんだ。ずっと。……ずっと。



