すべての花へそして君へ①


「去年の……さ。お披露目式」

「ん?」


 小さな小さな声だった。震えた、絞り出すような音。……きっともうすぐ零れるんだろう。


「オレら。新しいジンクス。作ったんだよ」


『ら』というのはきっと、あおいのことだろう。リボンを、ネクタイを奪われたら……そんなジンクスにちなんだ、こいつらだけの、ジンクス。


「届くまで、諦めねえって。キサの説得もだったけど、あいつに、……オレの。想いを、と。おも、って」


 途切れ途切れに紡がれ始める。小さく体が震え始める。けど、堪えようと必死に歯を食い縛ってる。……きっと、そうしてると思う。


「けど、……ダメだった。オレは、オレの想いは、……あいつから同じもん、返ってこなかった」


 それが。誓いが、叶えられなかったら。生徒会のオレらの辿る道は、最悪な道。


「でも、……約束したんだ。守ってやるって。お互い守ろうな、って。……タンスから」


「約束したんだ」と。小さく何度も、何度も何度も。息をつくようにチカは、……しばらくずっと、零していた。


 ――――――…………
 ――――……


「……なあ」

「ん?」

「子どもの名前、なんて付けんの」

「……は?」


 少し落ち着いたのか、そんなことを言い始めた。


「……なんだよ。生まねーのかよ」

「オレは生めない」

「ばーか」

「……欲しいとは、思う」

「……そっか」


 ……うわ。なんだこれ。恥ずかしいどころの話じゃない。


「……オレにも肩貸して」

「……しゃーねーな」


 男同士で。廊下のど真ん中で。きっと、なにやってんだこいつらって。思われるだろうけど。


「アオイにも聞いたけど、あいつはまだそこまで考えてないみたいだったぞ」

「……なに勝手に聞いてんの」

「ずっと一緒にいるんだろうから、そうなるだろうなって思っただけだ」

「……そ」


 小っちゃいくせに、どうしてか大きく見えるその体が、オレには少し、羨ましかった。こんなこと言ったら、「じゃあ身長分けろ」とか言ってきそうだけど。……でも、こいつにはほんと、いろいろ支えてもらった。