「去年の……さ。お披露目式」
「ん?」
小さな小さな声だった。震えた、絞り出すような音。……きっともうすぐ零れるんだろう。
「オレら。新しいジンクス。作ったんだよ」
『ら』というのはきっと、あおいのことだろう。リボンを、ネクタイを奪われたら……そんなジンクスにちなんだ、こいつらだけの、ジンクス。
「届くまで、諦めねえって。キサの説得もだったけど、あいつに、……オレの。想いを、と。おも、って」
途切れ途切れに紡がれ始める。小さく体が震え始める。けど、堪えようと必死に歯を食い縛ってる。……きっと、そうしてると思う。
「けど、……ダメだった。オレは、オレの想いは、……あいつから同じもん、返ってこなかった」
それが。誓いが、叶えられなかったら。生徒会のオレらの辿る道は、最悪な道。
「でも、……約束したんだ。守ってやるって。お互い守ろうな、って。……タンスから」
「約束したんだ」と。小さく何度も、何度も何度も。息をつくようにチカは、……しばらくずっと、零していた。
――――――…………
――――……
「……なあ」
「ん?」
「子どもの名前、なんて付けんの」
「……は?」
少し落ち着いたのか、そんなことを言い始めた。
「……なんだよ。生まねーのかよ」
「オレは生めない」
「ばーか」
「……欲しいとは、思う」
「……そっか」
……うわ。なんだこれ。恥ずかしいどころの話じゃない。
「……オレにも肩貸して」
「……しゃーねーな」
男同士で。廊下のど真ん中で。きっと、なにやってんだこいつらって。思われるだろうけど。
「アオイにも聞いたけど、あいつはまだそこまで考えてないみたいだったぞ」
「……なに勝手に聞いてんの」
「ずっと一緒にいるんだろうから、そうなるだろうなって思っただけだ」
「……そ」
小っちゃいくせに、どうしてか大きく見えるその体が、オレには少し、羨ましかった。こんなこと言ったら、「じゃあ身長分けろ」とか言ってきそうだけど。……でも、こいつにはほんと、いろいろ支えてもらった。



