すべての花へそして君へ①


「わああっ!!!!」


 バタン。倒れた。


「なにすんだヒナタッ!!」

「足引っかけた」

「んなもんやられたオレが一番わかってるっつの!!」

「ねえチカ」

「なんだよ!!」

「どこがいいの」

「……は?」

「どこ貸して欲しいの」

「……ひなた」


 上手い言葉は、言ってやれない。オレは不器用で、捻くれてて、素直じゃないから。


「たとえば? どこならチカは、借りてくれるの」

「……」


 こいつみたいに、……真っ直ぐじゃないから。


「言ったじゃん。チカには特別だって。まさか、メールちゃんと見てないってことないよね」

「……見たよ、ちゃんと」

「……そっか」


 転けてから一向に立ち上がる気配のないチカ。胡座を掻いて、完全に座り込んでいるこいつの前に、しゃがみ込む。


「……全然、アタリじゃねえじゃんって思った」

「そう? オレは大アタリだと思うけど」

「はっ。どこがだよ。くじ運悪すぎだろ」

「チカはいつも運ないじゃん」

「……ま。そうだな」

「オレなんかに好かれたんだからさ」

「っ、え?」

「こんな奴に好かれて付き纏われて友達なんだもんね。毎日大変でしょ。あ、でも飽きないか。それはそれで運がいい?」

「……ひ、なた」

「だから、チカには特別。いっつも迷惑かけたから。かけてなかったことないくらい。オレに迷惑をかけられたチカに、オレはチカが貸して欲しいとこ、貸してあげたい」


 なんか、言っててよくわかんなくなってきたけど。……でも、目の前のチカは驚きで瞳孔開いてた。


「お前誰だよ」

「……九条日向。高2……って、これ何回させるのオレに」

「オレ初めてだし」

「いやまあ、そうだけど……」


 そっと、視線を外して俯いたチカは、胡座の上で小さく『こっち来い』と合図してきた。
 口で言えよ、とか、普段なら言ってただろうけど、それは言わず素直に近寄る。そしたら次は「座れ」って。しゃがむんじゃなくて、ってことだろうから、オレもチカに倣って胡座を掻いた。廊下のど真ん中だけど。


 ……ポスン。


「肩くらいは……貸せ」

「……そっか。じゃあ、今度から⑤番目に入れておくよ」


 肩に頭を乗せてきたチカは、大きく息を吐いていた。
 ……何をするでもない。ただオレは、胡座を掻いて座ってるだけ。