「わああっ!!!!」
バタン。倒れた。
「なにすんだヒナタッ!!」
「足引っかけた」
「んなもんやられたオレが一番わかってるっつの!!」
「ねえチカ」
「なんだよ!!」
「どこがいいの」
「……は?」
「どこ貸して欲しいの」
「……ひなた」
上手い言葉は、言ってやれない。オレは不器用で、捻くれてて、素直じゃないから。
「たとえば? どこならチカは、借りてくれるの」
「……」
こいつみたいに、……真っ直ぐじゃないから。
「言ったじゃん。チカには特別だって。まさか、メールちゃんと見てないってことないよね」
「……見たよ、ちゃんと」
「……そっか」
転けてから一向に立ち上がる気配のないチカ。胡座を掻いて、完全に座り込んでいるこいつの前に、しゃがみ込む。
「……全然、アタリじゃねえじゃんって思った」
「そう? オレは大アタリだと思うけど」
「はっ。どこがだよ。くじ運悪すぎだろ」
「チカはいつも運ないじゃん」
「……ま。そうだな」
「オレなんかに好かれたんだからさ」
「っ、え?」
「こんな奴に好かれて付き纏われて友達なんだもんね。毎日大変でしょ。あ、でも飽きないか。それはそれで運がいい?」
「……ひ、なた」
「だから、チカには特別。いっつも迷惑かけたから。かけてなかったことないくらい。オレに迷惑をかけられたチカに、オレはチカが貸して欲しいとこ、貸してあげたい」
なんか、言っててよくわかんなくなってきたけど。……でも、目の前のチカは驚きで瞳孔開いてた。
「お前誰だよ」
「……九条日向。高2……って、これ何回させるのオレに」
「オレ初めてだし」
「いやまあ、そうだけど……」
そっと、視線を外して俯いたチカは、胡座の上で小さく『こっち来い』と合図してきた。
口で言えよ、とか、普段なら言ってただろうけど、それは言わず素直に近寄る。そしたら次は「座れ」って。しゃがむんじゃなくて、ってことだろうから、オレもチカに倣って胡座を掻いた。廊下のど真ん中だけど。
……ポスン。
「肩くらいは……貸せ」
「……そっか。じゃあ、今度から⑤番目に入れておくよ」
肩に頭を乗せてきたチカは、大きく息を吐いていた。
……何をするでもない。ただオレは、胡座を掻いて座ってるだけ。



