すべての花へそして君へ①


 そう言ったきり、彼は俯いたままぎゅっと切なげに手を握っていた。……そういえばヒナタくんは、『これ』を言ったあとのことをずっと考えてたんだっけ。
 わたしがどう言葉を返してくるのか。もしかしたらそれが、彼にとっては少し怖かったのかも知れないな。

 どんな言葉が返ってくると思ったんだろう。それは流石に聞いてあげない方がいいかな。すごく知りたいけど。
 でも、今はそんなことどうでもいいなあ。


「……あ、おい……?」


 長い沈黙を破って。まだ照れているのか、俯いている彼が、何も言わないわたしに不安そうな声を上げた。


「……あおい? どうし……」


 それでも返事を返さなかったわたしに、もっと不安になったんだろう。ゆっくりと顔を上げた彼の顔や耳は、まだちょっと照れが残っていた。


「……え」


 そんな彼を見て、かわいいなって思ったけど。……思ったけど、今はやっぱりどうでもいい。


「……な、なんでそんなに剥くれてんの……?」

「……そんな顔にもなるよ」

「え」

「ちょっと、怒ってるもん」

「っ、え」


 じっと見つめると、彼は少し狼狽えた。


「……なん」

「あと、ちょっと悲しい」

「……え?」


 少しだけ強く、握る手に力を込める。手からすぐに驚きが伝わってきたけれど、そのあと返事の代わりに向こうも握り返してくれた。


「……ちょっと聞いてみるんだけど」

「……はい」

「わたしがこう言うってわかってて、なんでそう言ったのかなって」

「……いや。思ってたのと、全然違った」

「……そうなの?」


 返ってきたのは「ん」と小さな肯定音。そして目の前には、申し訳なさそうに小さくなったヒナタくん。……ちょっとかわいい。


「じゃあ、どうして怒ったのか。悲しいのか、わかんないんだ」

「……ん。ごめん」


 叱られる前の子どものように、しゅんっと小さくなってしまった。……やっぱりちょっとかわいいな。