「でも本当に大したこと言わないから。鼻の穴広げないで」とか言われた。結構真面目なトーンで。……広げてないのにっ。ただ鼻息が荒いだけなのにっ。
「はあ。……ほんと、格好つかない」
「……!」
一際強く握られた手。それに再び、ゆっくりと視線を……素早く鼻の穴を戻す。
「こんなオレ、……だけどさ」
しょうもないって。大したことじゃないって。……そう言ってたくせに。ここまでスラスラ出てこない言葉の、どこがしょうもないんだか。
「……それでも」
「……うん」
わたしの視線に耐えられなくなって、彼は瞼をゆっくり下げながら。繋いでいる手へと視線を下げながら……。
「それでも、嫌じゃないんでしょ? こんなオレのこと」
彼にとってはしょうもないらしい言葉を。わたしにとっては全然しょうもなくない言葉を。恐らく考え事である『言ってあげられる言葉』を。一生懸命振り絞って、言葉にしてくれた。



