✿
それから、九条さんの髪を整え、髪型もセットさせてもらった。
「うわ。やっぱりプロがやると違うよね」
「プロじゃありませんよう」
「いいじゃん。そのうちなるんだから」
「……ありがとうございます」
彼の言葉は、いちいちぼくの心を揺さぶった。諦めなければならないと。そう決めていたのに、決心が揺らいでしまう。
「……もうちょっと襟足を切った方がよかったでしょうか」
「ん? そう?」
「はい。少しだけ失礼しますね」
でも、多分きっと、彼の言ってくれた言葉がぼくの欲しかった言葉。だから……揺らいだんだ。だから、……もっとかっこよく見えるようにしてあげたいんだ。
「うん。完璧です。これできっと、彼女も喜んでくれると思いますよ?」
「……そうだと嬉しい。ほんとありがと、カオル」
「いえいえ~」
ありがとうは、こっちの方ですよ、九条さん。
あそこから、ぼくたちを救い出してくれたことも。……今、ぼくに欲しい言葉をくれることも。
「それじゃあ片付けるか」
「あ。いいですよ? 任せてください」
「え。でも」
「これも、プロの道への第一歩ですからあ」
「……じゃあ、遠慮なくそうさせてもらうね。ありがと」
まだ、揺らいだだけで、自分がどうするべきなのかはわからないけれど。
「それじゃあ『また』頼むねー」
「……!! 九条さ――」
髪の黒い彼は、手を振りながら出ていった。
……きっと。会いに行ったんだろう。大好きな彼女のところへ、その髪色を見せに。
「……かっこ、いいですねえ」
そういうことを言えることが。今のぼくには、とても眩しかった。
「……とっても、よくお似合いです」
準備されていた黒は、ほんの少しだけブラウンが入っていて、ただの黒じゃないやさしい黒になった。きっと、美作さんの勝手な判断なのだろう。……彼の似合いそうな色を、よく知っている。
とても、……かっこいいです。ほんと。
「……ほんと。よくお似合いだと思いますよ」
『オレがなりたいのは、あいつの旦那さん』
それから、九条さんの髪を整え、髪型もセットさせてもらった。
「うわ。やっぱりプロがやると違うよね」
「プロじゃありませんよう」
「いいじゃん。そのうちなるんだから」
「……ありがとうございます」
彼の言葉は、いちいちぼくの心を揺さぶった。諦めなければならないと。そう決めていたのに、決心が揺らいでしまう。
「……もうちょっと襟足を切った方がよかったでしょうか」
「ん? そう?」
「はい。少しだけ失礼しますね」
でも、多分きっと、彼の言ってくれた言葉がぼくの欲しかった言葉。だから……揺らいだんだ。だから、……もっとかっこよく見えるようにしてあげたいんだ。
「うん。完璧です。これできっと、彼女も喜んでくれると思いますよ?」
「……そうだと嬉しい。ほんとありがと、カオル」
「いえいえ~」
ありがとうは、こっちの方ですよ、九条さん。
あそこから、ぼくたちを救い出してくれたことも。……今、ぼくに欲しい言葉をくれることも。
「それじゃあ片付けるか」
「あ。いいですよ? 任せてください」
「え。でも」
「これも、プロの道への第一歩ですからあ」
「……じゃあ、遠慮なくそうさせてもらうね。ありがと」
まだ、揺らいだだけで、自分がどうするべきなのかはわからないけれど。
「それじゃあ『また』頼むねー」
「……!! 九条さ――」
髪の黒い彼は、手を振りながら出ていった。
……きっと。会いに行ったんだろう。大好きな彼女のところへ、その髪色を見せに。
「……かっこ、いいですねえ」
そういうことを言えることが。今のぼくには、とても眩しかった。
「……とっても、よくお似合いです」
準備されていた黒は、ほんの少しだけブラウンが入っていて、ただの黒じゃないやさしい黒になった。きっと、美作さんの勝手な判断なのだろう。……彼の似合いそうな色を、よく知っている。
とても、……かっこいいです。ほんと。
「……ほんと。よくお似合いだと思いますよ」
『オレがなりたいのは、あいつの旦那さん』



