すべての花へそして君へ①


「――――さん」


 それからは、真剣な顔つきになったカオルに声をかけることが躊躇われて。オレはいつしか、眠りの淵に落ちていた。


「九条さん? 洗い流すので起きてもらえますか?」


 控えめに叩かれる手に、ゆっくりと瞼を開ける。


「いや近い。怖い」

「だってえ。九条さん全然起きないんですもん」

「ごめんつい。カオルも眠いだろうにごめんね」

「いいえ? とても楽しかったので、よければまた是非させてもらいたいくらいです」


 その言葉には、なんだか『もうできませんけど』っていう言葉が隠れているような気がした。


「カオルはさ。何に悩んでるの?」

「え?」


 髪を洗い流してもらい、シャンプーまで。至れり尽くせりで返せるものも何もないから、話くらいなら聞いてあげられるかなと、そう思った。


「さっきから寂しそう。コズエ先生が今いないのも原因なんだろうけど……」


 他に、何を悩んでいるんだろうか。


「……九条さんは」


 控えめに紡いだ言葉はすごく小さくて。深刻なんだなって、音だけでわかる。


「将来、なりたいものってありますか?」

「老衰死」

「え」

「健康で死にたいってこと」

「い、いえ。そこまでの将来は聞いていません」

「冗談冗談。わかってるよ」


 それだけ聞いて、オレが思ってたことは当たっていたとわかった。


「どっちを取るか、悩んでるってところか」

「いいえ。そういうことではありません」

「え?」


 どうやら、ちょっと違ったらしい。