(あんまり説得力がないと思ったのは、わたしだけではないはず)
けれど、そんな甘えたの彼に甘いのもまた事実。
今までたくさん頑張ってくれた彼を、思う存分甘やかしてあげたいなって。理事長が隠していたことは、これからも内緒にしておいてあげないといけないなって。ちょっと思った。
「甘えん坊さんっ」
「あおいになら、いいでしょ」
【特別】
彼にとっての特別になれて、……そんな言葉をもらえるだけで、胸が喜びで満ち溢れていた。
嬉しくて嬉しくて。今だけはいっかなって。そう思いながら、彼のやさしい香りのする頭を、そっと抱き締めた。
一瞬腕の中の彼は驚いたけど、すぐにふっと力が抜ける。
「……ごめんね。あおい」
「ん? ……いいよ。全然気にすることないよ」
「ごめんもさ。いっぱいあるんだ。……でも」
「え?」
腕の中で身動ぎした彼は、少しだけ上に上がってきた。見えた彼の顔は、とてもやわらかくて、やさしくて。
「でもさ、それ以上にありがとうがいっぱいあるんだ」
「……ひなたくん」
顔を近づけてきた彼は、もう一度だけ感触を確かめるようにやさしく押しつけるように唇を寄せた。
すっと離れた目の前には大人びた表情で微笑んでいるヒナタくん。
「……一回だけ。もう一回だけ許して」
それが何のことかわかったわたしも、彼と同じように了承を得ようとした。
「え。あおいはダメ」
「だったらヒナタくんもダメ」
「……じゃあ、一回だけね」
「ふふっ。……ヒナタくんもね?」
小さく言葉を交わしたわたしたちは微笑み合って。
「おかえり、あおい。助けるの、遅くなってごめん。あの時『またね』の約束破ってごめん。しんどい思い、いっぱいさせてごめん。隠し事、いっぱいしてて……ごめんね。気付いてくれて、……ありがとう」
「『また』ヒナタくんに、ルニちゃんに会えてすごく嬉しいっ。わたしも、ヒナタくんにいっぱいつらい思いさせちゃったね。もっともっと、早く気付いてあげられればよかった。……助けてくれて。ありがとう。ヒナタくん。わたしと、出会ってくれて。わたしをあの時、見つけてくれて。……本当にありがとう。……っ、ただいま! ひなたくんっ!!」
体をピッタリくっつけて。お互いがお互いを抱き締め合った。



