すべての花へそして君へ①


 さっきまで自分に腹を立てていた彼は、嫉妬していた彼は、憑き物が落ちたかのようにぽけーっとしていた。


(まあ実際のところ、カオルくんには口も塞がれてたしね。お兄さんたちからは、情報を引き出すので手一杯でそれどころじゃなかったしね……)


 ははは……と頭の中でそんなことを思っていると、クイクイッと背中の服が引っ張られた。


「ん?」

「嫌じゃ、なかった……?」

「え?」

「……今」


 ……えーっつと。


「……も、もういやと言ったのは、なんかいろいろパニックというかおかしくなりそうだったからで……」

「……ん」


 い……いい子にして待っとる。


「……い、嫌だったら、ひなたくん今頃ぶっ飛んで……るよ」

「……ん」


 回答にご満足いただけたのだろうか、嬉しそうな音を出した彼は、再び戻ってきた。……よっぽどお気に入りらしい。


「ゆっくりさ、しようと思って」

「ん?」

「これからのこと。そう、決めてて」

「……うん」


 擦り寄ってこられるとまた変な声が出そうになるんですけど。取り敢えず今は、必死に我慢した。


「……でも、やっぱり欲求不満だった。止まんなかった。オレ最低」

「え?! そんなことないから」

「あおいはやさしいからそう言うけど、オレほんと最低」

「こらネガ日向くん。ネガさんはポイしてください」


 ポカッと軽く、彼の頭を小突く。ヒナタくんが本当に最低なら、わたしは本当にここから彼を投げ飛ばしてるよ、今頃。


「……でも、嫌がられなかったから」

「え?」

「だから、……すげー嬉しかったりする。最低なのに」

「……だから、最低じゃないってばよ」


 どうやら、喜びを噛み締めていたらしい。お胸さんの上で。


「ゆっくりってさ。どれくらい?」

「え?」

「あおいが言ったんじゃん。ゆっくりお願いしますって」

「……えっと」


 そんなこと、恋愛初心者ピヨピヨひよこに聞かないで欲しい。


「オレもわかんない」

「え?」

「オレが、……したいようにしたら、きっとあおいを困らせるから」


 だから、そうはなりたくないからと。一緒にゆっくり進もうと。彼は、声をこもらせながらそう言った。胸の上で。