さっきまで自分に腹を立てていた彼は、嫉妬していた彼は、憑き物が落ちたかのようにぽけーっとしていた。
(まあ実際のところ、カオルくんには口も塞がれてたしね。お兄さんたちからは、情報を引き出すので手一杯でそれどころじゃなかったしね……)
ははは……と頭の中でそんなことを思っていると、クイクイッと背中の服が引っ張られた。
「ん?」
「嫌じゃ、なかった……?」
「え?」
「……今」
……えーっつと。
「……も、もういやと言ったのは、なんかいろいろパニックというかおかしくなりそうだったからで……」
「……ん」
い……いい子にして待っとる。
「……い、嫌だったら、ひなたくん今頃ぶっ飛んで……るよ」
「……ん」
回答にご満足いただけたのだろうか、嬉しそうな音を出した彼は、再び戻ってきた。……よっぽどお気に入りらしい。
「ゆっくりさ、しようと思って」
「ん?」
「これからのこと。そう、決めてて」
「……うん」
擦り寄ってこられるとまた変な声が出そうになるんですけど。取り敢えず今は、必死に我慢した。
「……でも、やっぱり欲求不満だった。止まんなかった。オレ最低」
「え?! そんなことないから」
「あおいはやさしいからそう言うけど、オレほんと最低」
「こらネガ日向くん。ネガさんはポイしてください」
ポカッと軽く、彼の頭を小突く。ヒナタくんが本当に最低なら、わたしは本当にここから彼を投げ飛ばしてるよ、今頃。
「……でも、嫌がられなかったから」
「え?」
「だから、……すげー嬉しかったりする。最低なのに」
「……だから、最低じゃないってばよ」
どうやら、喜びを噛み締めていたらしい。お胸さんの上で。
「ゆっくりってさ。どれくらい?」
「え?」
「あおいが言ったんじゃん。ゆっくりお願いしますって」
「……えっと」
そんなこと、恋愛初心者ピヨピヨひよこに聞かないで欲しい。
「オレもわかんない」
「え?」
「オレが、……したいようにしたら、きっとあおいを困らせるから」
だから、そうはなりたくないからと。一緒にゆっくり進もうと。彼は、声をこもらせながらそう言った。胸の上で。



