すべての花へそして君へ①


「まあ、今言ったことと考え事は違うけどね」

「今までの数ページはなんだったの!?」

「ん? ……ドM検定?」

「な、なんだ、それはっ。……結果は?」

「文句無しの一級ストレート合格」

「わあーい! ……って、違うでしょ!?」

「今本気でちょっと喜んだでしょ」

「うん。流石だね」

「流石ドMだね」

「ありがとう」

「どういたしまして」


 ……いや、ダメだって。このノリがはじまると、なかなか先に進まないよ? だって、ちょっと面白いんだもん。


「……ほんと、変わってる」

「え?」

「趣味を疑うって言ったの」


 ツンとした言葉とは裏腹。彼は、まるで壊れ物でも扱うかのように、汚れたわたしの手を、ただただやさしく包み込むように握った。


「……ひなた、くん?」

「今言ったことは、結構本気で言った」

「そ、そうですか……」

「でも、言ってないことの方が大部分を占めてる」


 俯いている彼が、どんな表情をしてそんなことを言っているのかはわからない。けれど何故か、なんのことかわからないその『言っていないこと』に、また心臓がうるさくなった。


「考え事……っていうのは、多分ちょっと、思ってるのと違うと思う」

「……どういうこと?」

「考え事は『言ってあげられる言葉』って言った。もちろんそれも考えたけど、どっちかって言ったら、それを言ったあとのことばっかり考えてた」

「……ヒナタくんのことだから、悪い方にばっかり考えてたんでしょ」

「当たり。流石。よくわかってるね、オレのこと」

「まあね! 大好きなヒナタくんのことだからね」

「……ははっ」


 まわりの大きな音にかき消されてしまうくらいの。きっと聞き逃してしまうような……そんな、小さな小さな音だったけれど。


「……そっか」


 確かに届いた、彼の小さな弾む音。