「まあ、今言ったことと考え事は違うけどね」
「今までの数ページはなんだったの!?」
「ん? ……ドM検定?」
「な、なんだ、それはっ。……結果は?」
「文句無しの一級ストレート合格」
「わあーい! ……って、違うでしょ!?」
「今本気でちょっと喜んだでしょ」
「うん。流石だね」
「流石ドMだね」
「ありがとう」
「どういたしまして」
……いや、ダメだって。このノリがはじまると、なかなか先に進まないよ? だって、ちょっと面白いんだもん。
「……ほんと、変わってる」
「え?」
「趣味を疑うって言ったの」
ツンとした言葉とは裏腹。彼は、まるで壊れ物でも扱うかのように、汚れたわたしの手を、ただただやさしく包み込むように握った。
「……ひなた、くん?」
「今言ったことは、結構本気で言った」
「そ、そうですか……」
「でも、言ってないことの方が大部分を占めてる」
俯いている彼が、どんな表情をしてそんなことを言っているのかはわからない。けれど何故か、なんのことかわからないその『言っていないこと』に、また心臓がうるさくなった。
「考え事……っていうのは、多分ちょっと、思ってるのと違うと思う」
「……どういうこと?」
「考え事は『言ってあげられる言葉』って言った。もちろんそれも考えたけど、どっちかって言ったら、それを言ったあとのことばっかり考えてた」
「……ヒナタくんのことだから、悪い方にばっかり考えてたんでしょ」
「当たり。流石。よくわかってるね、オレのこと」
「まあね! 大好きなヒナタくんのことだからね」
「……ははっ」
まわりの大きな音にかき消されてしまうくらいの。きっと聞き逃してしまうような……そんな、小さな小さな音だったけれど。
「……そっか」
確かに届いた、彼の小さな弾む音。



