すべての花へそして君へ①


 ニコッと笑ったヒナタくんは、腰に回した腕をまた少し引いて、頭同士をくっつけてくる。


「冗談はさておき。……オレだって漠然としたものしか持ってなかったよ」

「え? ……ど、どんなの?」

「『ハナが大人になるまでに絶対助けてやる』って」

「……すみません、ほんと」

「だから今、こうしていられるのが本当に夢みたい」


 スリスリと。擦り寄ってくる彼に小さく笑みが零れる。かわいい……って言ったら、怒るんだろうな。照れることないのにね。


「夢じゃないよ? 夢じゃない。わたしが、夢になんかさせないよ」

「……かっこいいね」

「どうもどうも」


 そっと見上げると、少し苦笑いの彼がいて。「勝てない勝てない」とぼやきながら、おでこにやさしくキスを落としてくる。……わたしの方こそ、絶対勝てない自信があるんだけどな。


「あおいもオレも、これからを考えられるようになったわけだけど」

「ん?」


 少し強めに握られた手に驚いて再び見上げると、真っ直ぐにじっと見下ろす瞳とかち合って。


「でも、ずっと変わらないものもある」


 ……真剣な眼差しに、ドキッとした。


「……えっと?」

「ハナへの、……あおいへの想い」

「……!」

「あ。でも、ちょっとは変わるか」

「え?」

「今も、前より変わったなって思う。あの頃よりもずっと、大きいよ。あったかいよ。きっと、これからもっと、どんどん大きくなっていくんだろうって思う」

「ひなたくん……」

「なんで泣きそうな顔するの」

「うれじいのっ」

「……そっか。だったら、オレも嬉しい」


 不器用な彼は、まずなかなか言葉にはしてくれないけれど。……でも、本当の思いを言葉にした時、それは何よりも真っ直ぐで。
 今までのことがあって、人間関係とかいろんなことに不安を感じてるわたしにとっては、彼の存在自体が支えだ。今でも……これからも。ずっと。


「オレの未来も真っ白に近いけど……でも、あおいのところだけは、色がちゃんとついてるよ。オレの未来にも、ちゃんとあおいがいるって、……そう思ってる」

「うんっ。わたしも……真っ白じゃないや。ちゃんと、そこだけはヒナタくんの色で染まってる。ずっとずっと。ヒナタくんの色だけは消えないよ」


 彼の手を取り、そっと自分の頬に付ける。このあたたかくて大きくて、やさしいやさしい手を、これからもずっと大切にできますように……と。


「ありがとう。あおい」

「こちらこそ。……ありがと。ひなたくん」


 そう……願いを込めて。