ニコッと笑ったヒナタくんは、腰に回した腕をまた少し引いて、頭同士をくっつけてくる。
「冗談はさておき。……オレだって漠然としたものしか持ってなかったよ」
「え? ……ど、どんなの?」
「『ハナが大人になるまでに絶対助けてやる』って」
「……すみません、ほんと」
「だから今、こうしていられるのが本当に夢みたい」
スリスリと。擦り寄ってくる彼に小さく笑みが零れる。かわいい……って言ったら、怒るんだろうな。照れることないのにね。
「夢じゃないよ? 夢じゃない。わたしが、夢になんかさせないよ」
「……かっこいいね」
「どうもどうも」
そっと見上げると、少し苦笑いの彼がいて。「勝てない勝てない」とぼやきながら、おでこにやさしくキスを落としてくる。……わたしの方こそ、絶対勝てない自信があるんだけどな。
「あおいもオレも、これからを考えられるようになったわけだけど」
「ん?」
少し強めに握られた手に驚いて再び見上げると、真っ直ぐにじっと見下ろす瞳とかち合って。
「でも、ずっと変わらないものもある」
……真剣な眼差しに、ドキッとした。
「……えっと?」
「ハナへの、……あおいへの想い」
「……!」
「あ。でも、ちょっとは変わるか」
「え?」
「今も、前より変わったなって思う。あの頃よりもずっと、大きいよ。あったかいよ。きっと、これからもっと、どんどん大きくなっていくんだろうって思う」
「ひなたくん……」
「なんで泣きそうな顔するの」
「うれじいのっ」
「……そっか。だったら、オレも嬉しい」
不器用な彼は、まずなかなか言葉にはしてくれないけれど。……でも、本当の思いを言葉にした時、それは何よりも真っ直ぐで。
今までのことがあって、人間関係とかいろんなことに不安を感じてるわたしにとっては、彼の存在自体が支えだ。今でも……これからも。ずっと。
「オレの未来も真っ白に近いけど……でも、あおいのところだけは、色がちゃんとついてるよ。オレの未来にも、ちゃんとあおいがいるって、……そう思ってる」
「うんっ。わたしも……真っ白じゃないや。ちゃんと、そこだけはヒナタくんの色で染まってる。ずっとずっと。ヒナタくんの色だけは消えないよ」
彼の手を取り、そっと自分の頬に付ける。このあたたかくて大きくて、やさしいやさしい手を、これからもずっと大切にできますように……と。
「ありがとう。あおい」
「こちらこそ。……ありがと。ひなたくん」
そう……願いを込めて。



