すべての花へそして君へ①


(……これから、か)


 でも、こうやって隣にいてくれる彼がわたしに、これからを作ってくれたわけだけど……。


(……不安、しかない)


 敷かれたレールの上を歩くのは容易いことだ。自分の意思など関係ないんだから。
 こうしたい、ああしたいっていうのがなくて、レールの上から外れることはない。……わたしの場合は、とてもとても冷たくてお先真っ暗だったわけだけど。


(……照らしてくれる太陽さんが、明るすぎるのも困りものだな)


 明るすぎて、これからが……真っ白だ。真っ白で、道すら見えないよ。
 ふと、繋がれた右手が遠慮がちに握られた。


「どうかした?」


 見上げると、もうバレてるよと言わんばかりのやさしい笑顔。また、意識していなかったけれど、繋いだ手だけでわたしの不安を感じ取ったらしい。流石。ヒナタ様々。


「今回は、手だけじゃない」

「え?」

「不安そうな顔してたし、それに気分悪そう」


「だから、もたれておいで」と。引き寄せられた手に抗うことはせず、彼の体に寄り掛かる。


「部屋来た時泣いてたのは、それも原因か」

「面目ない」

「謝ることない。言ったでしょ? 心配掛け合いっこしようねって」

「……うんっ」


 すっかり頼れる彼氏さん。さっきまでは苦しかったのに、ヒナタくんのおかげなのか、苦しくなくなっていた。
 だから、包み隠さずにぶちまける。彼の言葉は、いつだってわたしに元気も勇気だってくれたから。


「今までは……さ。未来のことなんて、考えてなかったんだ」


 考えていた……けど。それはものすごく漠然。成人式は出てやるぞー……ぐらいで。それはもう、考えていなかったと言っていいぐらいのもの。それを、隣の彼に話すのは少し気が引けたけれど。


「だから……さ。わたし、本当に真っ白なんだ。真っ白すぎて……ほんと、よくわかんないんだ」


 そんなわたしの不安ごと、手を繋ぎ直した彼は腰に手を回してそっと抱き締めてくれた。言葉はない。けれど、それだけですごくほっとした。こんな関係が……すごく、有り難かった。
 トクントクンと、彼の心地良い鼓動に耳を傾けていると、スーっと今まで不安が安らいでいく。あたたかくて、穏やかで。そんな、ゆったりとした空気に酔い痴れていると、わずかに繋がれている手に力が加わった。


「……いいんじゃない? 真っ白。そう言える人ってなかなかいないと思うけど」

「え?」

「だって真っ白なんでしょ? 桜って大抵、なんだかんだで進路が結構決まってる人が多いじゃん。どっかの財閥だったり、どっかの家元の出だったり。オレは逆にすごいと思うけど。選択肢、いっぱいあるじゃん」


 けど、その選択肢さえ、見つからない。それが今、これからの道は明るいはずなのに……怖い。


「なかったら、今から探せばいい。それだけのことでしょ?」

「み、見つかる、かな」

「さあ?」

「素直だね」

「そこがオレのいいところでしょ?」

「何をおっしゃっているのやら」