(……これから、か)
でも、こうやって隣にいてくれる彼がわたしに、これからを作ってくれたわけだけど……。
(……不安、しかない)
敷かれたレールの上を歩くのは容易いことだ。自分の意思など関係ないんだから。
こうしたい、ああしたいっていうのがなくて、レールの上から外れることはない。……わたしの場合は、とてもとても冷たくてお先真っ暗だったわけだけど。
(……照らしてくれる太陽さんが、明るすぎるのも困りものだな)
明るすぎて、これからが……真っ白だ。真っ白で、道すら見えないよ。
ふと、繋がれた右手が遠慮がちに握られた。
「どうかした?」
見上げると、もうバレてるよと言わんばかりのやさしい笑顔。また、意識していなかったけれど、繋いだ手だけでわたしの不安を感じ取ったらしい。流石。ヒナタ様々。
「今回は、手だけじゃない」
「え?」
「不安そうな顔してたし、それに気分悪そう」
「だから、もたれておいで」と。引き寄せられた手に抗うことはせず、彼の体に寄り掛かる。
「部屋来た時泣いてたのは、それも原因か」
「面目ない」
「謝ることない。言ったでしょ? 心配掛け合いっこしようねって」
「……うんっ」
すっかり頼れる彼氏さん。さっきまでは苦しかったのに、ヒナタくんのおかげなのか、苦しくなくなっていた。
だから、包み隠さずにぶちまける。彼の言葉は、いつだってわたしに元気も勇気だってくれたから。
「今までは……さ。未来のことなんて、考えてなかったんだ」
考えていた……けど。それはものすごく漠然。成人式は出てやるぞー……ぐらいで。それはもう、考えていなかったと言っていいぐらいのもの。それを、隣の彼に話すのは少し気が引けたけれど。
「だから……さ。わたし、本当に真っ白なんだ。真っ白すぎて……ほんと、よくわかんないんだ」
そんなわたしの不安ごと、手を繋ぎ直した彼は腰に手を回してそっと抱き締めてくれた。言葉はない。けれど、それだけですごくほっとした。こんな関係が……すごく、有り難かった。
トクントクンと、彼の心地良い鼓動に耳を傾けていると、スーっと今まで不安が安らいでいく。あたたかくて、穏やかで。そんな、ゆったりとした空気に酔い痴れていると、わずかに繋がれている手に力が加わった。
「……いいんじゃない? 真っ白。そう言える人ってなかなかいないと思うけど」
「え?」
「だって真っ白なんでしょ? 桜って大抵、なんだかんだで進路が結構決まってる人が多いじゃん。どっかの財閥だったり、どっかの家元の出だったり。オレは逆にすごいと思うけど。選択肢、いっぱいあるじゃん」
けど、その選択肢さえ、見つからない。それが今、これからの道は明るいはずなのに……怖い。
「なかったら、今から探せばいい。それだけのことでしょ?」
「み、見つかる、かな」
「さあ?」
「素直だね」
「そこがオレのいいところでしょ?」
「何をおっしゃっているのやら」



