「正直言って、面白くはない」
「だ、だよね。うん。大丈夫。ちゃんとシントには言っておくからね」
「あおいは? どうしたいの」
「わたし……?」
わたしは、シントがそれがいいって言うから、お世話にもなったし、できれば恩返ししてあげたいなって思うんだけど……。
「でも、ヒナタくんに嫌な気持ちになって欲しくないから、シントにはきちんとお断りの連絡を入れておくよ」
「行っておいで」
「うん。だから、シントには何か別のものを」
……え。今、信じがたい言葉が聞こえた気がする。
「……え。ひ、ヒナタくん、今なんて……?」
「ん? あおいがそうしたいならそれでいいとオレは思うけど」
「で、でもヒナタくん、面白くないって……」
「そりゃね。オレより先にデートですかって思うけど」
「……っ!?」
いちいちきゅんメーターが反応するんですけど。嬉しいけど恥ずかしいしで。顔があっつい。
「流石に、簡単に承諾するほど善人じゃないけど、オレそこまで小っさい男じゃないし。シントさんじゃあるまいし」
そう言いながら、握った手は『行って欲しくない』って言ってるように思うんですけど。
「……い、行ってもいいの……?」
「……? 行きたくないの? 行きたいんじゃないの?」
「えっと」
「行っておいで。しっかり遊んできなよ」
矛盾してますよ、さっきから。繋いだ手はガッチリ引き止めてますよ、わたしのこと。むぎゅむぎゅ言ってるから、手が。
(これは、やっぱり行かない方がいいよな。やっぱり。素直じゃないヒナタくんが、そう言ってるし)
「あ。でもさ、誕生日だったらあおい一人よりみんなで祝った方がいいんじゃない?」
「え? ……あ」
そっか! きっとシントも、大勢で祝ってくれた方が嬉しいはず!
「そうだね。きっとシント喜ぶと思う!」
サプライズで、お祝いしてあげよう! それがいいっ!
「シントさんこれから忙しそうだからさ、あっちに都合とか合わせてあげたら?」
「うん! そうだね! でも、ひなたくんが……」
「オレ? オレは大丈夫。もし変なことしようものなら、例の写真で脅すから」
「ほ、ほどほどにしてあげてね」
ふっと緩んだ繋いだ手とか。やさしく笑ってる表情とか。それは本当だなと思ったから、ここは心の広い彼氏さんに甘えさせてもらおう。
「(二人きりになんてさせないし)」
(※と、実は小っさい男のヒナタがそんなことを思っているのは、きっと葵が気付くことはないでしょう)
どうやらずっと、彼に脅しをかけられるらしいシントの心配をしつつ、やっぱりこれがヒナタくんだよなー、と。酷い話だけれど、通常運転が見られるのも、ちょっと嬉しかったりする。
結局は、どんなヒナタくんでも好きなんだよね。こうやって、傍にいてくれて、話してくれて、触れてくれるだけで。……すごく、落ち着く。



