<その頃のシントさんはというと……?>
「もう。葵ってば、普段は下着とか選ばないくせに」
お気に入りの、花柄で、葵があまり持っていないようなかわいい系の下着を、段ボールの底から引っ張り出そうとしていたのを思い出す。すっかり恋する乙女になってしまった葵に、寂しい気持ちもあれば、それさえも彼女は怖がっていたから、喜ばしい気持ちもある。そりゃ、妬かないことはないけど……。
「……うちでそんなことしようものなら、今度の葵とのデートが終わっても絶対返してなんかあげないんだから」
そんなことをぶつくさ言いながらも嬉しそうに頬を緩めているシントは、膝の上で葵がぐちゃぐちゃにしていった下着類を畳んであげていましたとさ。
<もう慣れました>
「いや、まあ今どうこう言ってもしょうがないけどね。取りに行ったら行ったでほんとに頭突っ込んでたら怖いから行かないけど」
まずは、そのシントのことで一つご相談があるのです。
「……はあ?」
「い、いや。だからね……?」
お、思った通りの反応だったけど……でも、誕生日をお祝いしたいって気持ちはやっぱりあるから。
「シントが執事として道明寺にいてくれてた時、毎年誕生日プレゼントをあげてたんだ」
「ん」
「……今年はね、忙しくって準備してあげられなかったから。だからプレゼントをね? あげたいなって思って」
「ん」
……その『ん』がめちゃくちゃ怖い。言葉が無くてもわかる。その『ん』はめちゃくちゃ怒ってる。
「そ、その……。もちろん、ヒナタくんがやめろって言ったらやめるよ?」
「それで。誕生日のプレゼントに、あおいと遊びたいって?」
「へ、へいっ。その通りで……」
再び、二人でベッドに腰掛けて、さっきの困った元執事さんのことを話していました。
「そ、それで、一応今は保留ってことにしてるんだけど。やっぱり……その。か、彼氏さんに相談をと思って」
彼氏という単語に慣れていないこと。彼の雰囲気がちょっとどころじゃないくらい怖いこと。半分ずつぐらいが原因で、めちゃくちゃドキドキしてます。前者が理由でちょっと体が震えてます。後者が理由で奥歯ガタガタ言ってます。……忙しない。
「はあああ」
(これはまた……。一段と大きいことで)
まあそうなるよな……と思って、頭を抱えたヒナタくんに、「やっぱり違う方法を考えるよ」と付け足しておいた。



