空白の時間が、長かったか短かったかはわからない。そんなのを考える間もなく、無理矢理顔を上げられ、深く唇が重ねられた。
熱い熱い彼の唇に……蕩けてしまいそうだ。
「すげー殺し文句」
「え?」
「そういうのどこで覚えてくんのさ。頼むからオレ以外には言わないで。オレにはいっぱい言って」
「え」
どこで覚えてくるも何も。ただ、もうすぐシントとアイくんと三人でコズエ先生と一緒に出かけに行くから……。
「……もうちょっと、今日は一緒にいて欲しい」
そう思ったから素直に言っただけだもん。
「もちろん。仰せのままに? ていうかオレだってついていきたいくらいだし」
「ヒナタくんもまた別日に呼ばれてるんでしょ?」
「アタリ」
だから……離れがたいけど。もうちょっと一緒にいようと。
触れ合うだけの、やさしい長いキスをして、小さく笑い合っ――
「臭い」
「ぅえっ!?!?」
は、歯磨き、したのに……。餃子ですか。ニンニクですか。食べたそれがマズかったんですか。強烈やん……。
「シントさん臭い」
「……え?」
「髪乾かしてる時から思ってたけど、シントさんの匂いが移るほど抱き締められたんですか、あおいさん」
(……これは、抱きついた、と言わない方がいいんだろうな)
「まあ証拠は挙がってるから、否定されても嘘こけって言うけど」
「え。しょ、証拠……?」
「シャワー浴びる前と後、匂いが一緒」
(……やっぱりヒナタくん、猫よりも犬なのかな)
「風呂で匂い落としてもらおうと思ったのに。そういえばここ皇じゃん。すげーシントさん臭い」
(シントが匂うみたいになっている……)
ちょっとだけ、シントの未来がどうなるか心配していたら、首元がファサファサッと擽られた。
「……くすぐったい」
頭をスリスリとすり寄せてくる彼は、やっぱりちょっとワンコさんみたいだ。
「どうしたの?」
「いや、オレさっき髪染めて綺麗なの頭しかないからさ」
「……?」
「……なんかヤだから、オレの匂い付けたい」
………………? ………………。
「ひなたくんも、ここでシャンプーしたんじゃないの?」
「そうだったって、今思い出したから揚げ足取らないで」
「ははっ。ごめんごめん」
唇を尖らせた彼は、今度は後ろからぎゅーっと抱き締めてきた。
「オレの匂いが付くまで、抱き締めててもいい?」
「はい。もちろん。ご主人様のお好きなように?」
ただ……まあ、ひとつだけ気になるけど。
「その神父服は自前でございますか? ご主人様?」
「……揚げ足取らないでください、あおいさん」
「はは。ごめんなさい?」
けれど、彼の腕は緩むことはなかった。
わたしも、彼の温度が、やさしい力が離れていって欲しくなかったから。彼の袖を、少しだけ握っておくことにした。



