すべての花へそして君へ①


(お尻もお仕置きだったわけかー……)


 思わず頭を抱えた。お仕置き完全に喜んじゃったよわたし。やっぱりドM……いや、それはわかってたけど、別に喜んでたわけじゃ……。い、嫌じゃなかったってだけだもんっ!
 ……ちらっともう一回、鏡に映った彼を見上げた。さっきはとっても楽しそうに『お・し・お・き』って言ってたけど……。


「……?」


 なんだろう。鏡に映ってるせいかな。鏡の中の世界のヒナタくんが、なんだかとっても天使に見える。
 だから、実際の彼を見るのがちょっと怖い。だって彼、悪魔さんだし。……いや、鏡はちゃんとヒナタくんを映してるけどね。ちゃんと。


(でも、やっぱりこのお仕置きは嬉しいかも知れない)


 だって、ヒナタくんに避けられていたわたしにとって、彼からわたしに触れてくるなんてこと、今はまだちょっと貴重感があるもん。


(それに、触れてくれる手があったかくて気持ちいい……)


 誰かに頭を触られること自体、気持ちよくなって寝てしまいそうになるっていうのに。それがヒナタくんってなったら、目閉じた瞬間3秒で寝ちゃうよ。お昼寝したと言えど、ここ最近わたし全然寝てないから余計。
 とか思ってたら、本当に船漕いでしまった。危ない危ない。もうちょっとで鏡台と激突しそうだったし。いきなり大きく漕ぐんだもん。ビックリしたじゃないか。……ヒナタくんも、乾かす手が完全に止まって目が点になってるし。


「流石に眠いか」

「い、いや。頭を触られちゃうとこうなっちゃうんだ」

「いきなり頭下げたから、悲惨な頭見たくなかったのかと思った」

「え? ひ、悲惨……?」


 言われて改めて鏡を確認。……ヤマンバみたいになっとるがな。


「それか鏡の自分に謝ってるのかと。色気のない服選んでごめんなさいって」

「え。それってヒナタくん。遠回しにわたしに文句言ってるよね」

「ちょっと期待したのは否定しない」

「……すみませんね。ガッカリさせてしまって」

「ガッカリしたとは言ってないし否定する」

「え?」


 髪を乾かし終えたのか、今度はブラシで髪を梳いてくれた。


「その下……ってさ、ズボン履いてるんだよね」

「え? う、うん」

「男というものはバカな生き物でね、あおいちゃん」

「え」

「想像するんですよ。バカだから」

「…………え?」

「だから言ったじゃん。履いてるんだよねって」

「は、履いてないと思ったのっ?!」

「いや、それは思ってなかったよ。流石にパンツは履いてるでしょ」

「当たり前でしょ」

「ただ……まあ、ちょっとだけ目のやり場に困ってないこともない」

「……でも、さっきのワンピースも丈が長かったわけじゃないでしょ?」

「……じゃあ、ちょっとハッキリ言うけど」

「ん?」

「あおいさん、エロい」

「うえっ?!」

「いや下」

「……え?」

「上じゃなくて下。下だけ見たらほんとヤバい」


 いやわたし、そんなつもりで『うえっ?!』って言ってません。


「まあ、上見たらなんか落ち着くけどね。寧ろ色気のある部屋着じゃなくてありがとう、って感じ。流石。オレのことよくわかってるね」


 ヒナタくんの言ってる日本語がよくわからない。