ガラス戸の向こうは、なんか、真っ白だった。真っ白でふわふわで。
(……あったかい)
大きな大きなそれに、体がすっぽりやさしく包み込まれた。
「おかえり」
いなくなったんだとばかり。大きなタオルを広げて待っていた彼は、タオルごと抱き締めながら大人びた顔で笑った。
「……ひなたくん」
なんだか今、ここから出てきたことに対して『おかえり』と言われたんじゃないような気がして。その『おかえり』に、もっと長い時間の思いが詰まってるような気がして。
「……。うんっ。ただい――」
「ていうか、よくスッポンポンで躊躇わずに出てこられるね。男のオレでも、今の状況だったらちょっとだけ扉開けて確認とかするよ?」
擦り寄ってさ? タオル越しに彼の服を掴んでさ? 今、ただいまって言おうとしたんですけどね? ……食い気味で返事をすればよかったんですかね。そうでしょうね、きっと。
「ひな」
「見られたくなかったらタオル持っててね」
「ぅえっ!?」
そう言うや否や手を離した彼は、小さめのタオルで今度はわたしの頭を拭き始めた。
「ひ、ひなたくん。自分でやります……」
「いいの。オレがやってあげたいから」
『どこまでやるつもりですかね?』って、頭のほぼ全部で思った。
「ひなた、くん……? あの……」
けど、あなたが仰った通り、わたし今スッポンポンなんですよね。タオルしてますけど。ですから……なんかこう、わかってもらえると有り難いんですけど。特に、着替えられないので。
「シントさん? 通報はしてないよ流石に」
――よかった。頭の中の、さっきの残りくらいは思った。
「ただ、……寂しかったから」
「っ、え……?」
言葉通りの声色に、慌てて顔を上げる。わしゃわしゃと、やさしく頭を拭いてくれている彼が今、本当にそう言ったのだろうか。
「……ひなたくん」
「ちょっとさ、言ってから後悔してた」
「え?」
拭いていた手を止めて、もう一度やさしく抱き締められる。……その腕だけで、今の彼の思いが伝わってくるようで。
「今はさ。ちょっと離れたくないな、って」
ぎゅっと力を入れた彼は、そのまま濡れた髪にキスをする。
「……寂しかったの?」
「うん」
「素直だね」
「うん」
「ほんとに通報してない?」
「……」
「え」
「ははっ。してないよ?」
腕の中から顔を上げると、今度は子どもっぽい笑顔。それにきゅんって胸が鳴ったのは、もうしょうがないことだと思う。
「いなく、なっちゃったのかと思った」
「え?」
「それくらい。……今は、あおいの姿が見えてないと、声が聞こえてないと、あおいに触れてないと」
寂しくなるから、と。
……ああ。だから彼は、わたしに電話をしてきた時、とても嬉しそうにしていたのか。
「……大丈夫。どこにも行かないからね?」
「うん」
「ずっとずっと、一緒にいるよ。ヒナタくんから絶対離れない」
「うん」
「離れてって言っても、嫌って言っても、肋骨が折れるーって言っても、絶対離してなんかあげないんだぞ?」
「ははっ。うーん。それは流石に離さなくてもいいから、腕の力は緩めて欲しいかも」
「承りました。ははっ」



