すべての花へそして君へ①


 薄暗い廊下。非常灯。響く足音。小さな息づかい。

 突き当たり。漆黒で、分厚くて、冷たい、鈍色の扉。



 ノックもせず、ノブを捻って足で開ける。

 部屋の中は画面だらけ。

 壁一面の気味悪く緑色に光る画面に、つらつらと文字や数式が今も絶え間なく流れている。



 その部屋にある一つの机。

 そこに手を組み、こちらを睨み付けてくる目は、人一人殺してるんじゃないかと思うほどの凄みだ。


 そして、この俺を呼びつけた張本人。ここのBOSS。


「こんな時間に呼び出すなんて~。ボス、やっぱり俺のこと好きなんッスね」


 クチャクチャとガムを噛みながら、ポケットには手を突っ込み、首に掛けたヘッドホンから漏れる音楽に合わせ、ダラダラとボスの前に足を進める。


「それで? なんッスか? 俺を呼ぶんですから、結構重要だったり?」


 大きく息をついたボスは、こちらにファイルを投げつけてきた。


「もうっ。ボスってばツンデレなんッスから」


 そのファイルに目を落とした俺は、トップに書かれた文字に口角を上げた。


┌                  ┐
     【 TOP SECRET 】
      -最優先事項-



 ――――――――――…………
 ――――――――……

 ――――――――――…………
 ――――――――……


└                  ┘


「ふ~~ん。じゃあ、今の担当分は後回しってことッスね。……え。同時進行? ボス~~。鬼畜ッスよ~~」


 そう文句を垂れながら、もらった資料に目を通していく。…………はは~ん。なるほど。


「【例の子】ッスね。そんな大事な子。俺に回しちゃっていいんッスか? 食われちゃいますよ?」


 ボスはこちらを一瞥しただけで、何も言わずに奥の扉へと姿を消した。……たく。ボスのツンデレは考え物だ。


「さあて。それじゃあいっちょ、ボスの『願い』を叶えてあげることにしましょうか。待っててね~。どうみょ……、いや」



 ……あさひな、あおいちゃん?