薄暗い廊下。非常灯。響く足音。小さな息づかい。
突き当たり。漆黒で、分厚くて、冷たい、鈍色の扉。
ノックもせず、ノブを捻って足で開ける。
部屋の中は画面だらけ。
壁一面の気味悪く緑色に光る画面に、つらつらと文字や数式が今も絶え間なく流れている。
その部屋にある一つの机。
そこに手を組み、こちらを睨み付けてくる目は、人一人殺してるんじゃないかと思うほどの凄みだ。
そして、この俺を呼びつけた張本人。ここのBOSS。
「こんな時間に呼び出すなんて~。ボス、やっぱり俺のこと好きなんッスね」
クチャクチャとガムを噛みながら、ポケットには手を突っ込み、首に掛けたヘッドホンから漏れる音楽に合わせ、ダラダラとボスの前に足を進める。
「それで? なんッスか? 俺を呼ぶんですから、結構重要だったり?」
大きく息をついたボスは、こちらにファイルを投げつけてきた。
「もうっ。ボスってばツンデレなんッスから」
そのファイルに目を落とした俺は、トップに書かれた文字に口角を上げた。
┌ ┐
【 TOP SECRET 】
-最優先事項-
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└ ┘
「ふ~~ん。じゃあ、今の担当分は後回しってことッスね。……え。同時進行? ボス~~。鬼畜ッスよ~~」
そう文句を垂れながら、もらった資料に目を通していく。…………はは~ん。なるほど。
「【例の子】ッスね。そんな大事な子。俺に回しちゃっていいんッスか? 食われちゃいますよ?」
ボスはこちらを一瞥しただけで、何も言わずに奥の扉へと姿を消した。……たく。ボスのツンデレは考え物だ。
「さあて。それじゃあいっちょ、ボスの『願い』を叶えてあげることにしましょうか。待っててね~。どうみょ……、いや」
……あさひな、あおいちゃん?



